「懲役8年が相当と思います」。地裁で開かれた模擬裁判の2日目、検事が危険運転致死罪で懲役8年を求刑した。裁判官3人と市民から選ばれた裁判員6人、報道関係者の補充裁判員2人は別室に移り、評議に入った。
評議は、地裁内の別屋で「無罪か有罪か」「どのような刑を与えるか」を裁判官と裁判員が一緒に話し合い、結論を出す。検察側の論告を基に議論が進められる。裁判員たちの緊張感が漂う中で評議はスタート。補充裁判員にも発言が許された。
裁判官が「Aさんはどう思いますか」などと裁判員一人ひとりに意見を求めると、予想外に様々な意見が出され、思わずうなってしまった。
被告の飲酒運転を妻が止められなかったことについて、「妻の責任でもある。量刑を軽くする判断材料だ」「飲酒運転を知っていた妻が見逃した分、量刑は重くすべきだ」と正反対の意見もあった。
各裁判員が意見を述べた後、裁判官は専門家の立場から「警察官が事故後検知した容疑者の呼気1リットル中0・8ミリ・グラムというアルコール量は、異常に高い。私の経験した裁判でもあまり例がない」と指摘した。
裁判員たちは一様に驚き、プロの助け船は不可欠だと感じた。一方、「裁判官の言う通り」と簡単に納得してしまう雰囲気があり、市民の率直な意見を量刑に生かす難しさも感じた。
「遺族の思いをどう量刑に生かすか」「被告人が遺族に送った謝罪文を償いととらえるか、言い訳と見なすか」……。様々な視点について、裁判員それぞれが意見を述べた。当初緊張し、戸惑っていた裁判員たちは、いつの間にか時間を忘れ、遺族、被告人のために真剣に話し合っていた。
評議を始めて2時間後、量刑を決める段階に入った。各裁判員は、裁判官から量刑を無記名でメモ書きするよう求められた。
メモが回収されるまでの約5分間、私は懲役5年か、3年にするかで悩んだ。被告人の法廷での様子を思い出した。終始頭を下げ、悲壮感漂う表情から、反省していると考え、懲役3年と書いた。
メモに書かれた量刑は、懲役7年、6年、5年6月、5年、4年、3年とバラバラで驚いた。ほかの裁判員は「被害者に落ち度はない」「遺族が厳重な処罰を望んでいる」などと遺族側の心情を酌み、5年以上としたことが分かった。
その後、最終採決で補充裁判員は抜け、少なくとも裁判官1人を含む過半数に達した場合は有罪という裁判員法の規定に沿い、判決は「懲役6年」に決まった。
模擬裁判後の意見交換会で、裁判員役を経験した参加者が残念がった。「被害者の妻の話をもう少し聞きたかった」
被害者参加制度で証人に立った被害者の妻が、もし法廷で泣き出したり、感情を込めて意見陳述をしたら、私を含め裁判員たちはもっと心情的に遺族側に寄り、重罰を与えようとしたかもしれない。
畑山靖裁判長は「感情に流されず、被害者の心情を冷静かつ適切に量刑に反映させることが重要です」と強調した。裁判員制度では、選ばれた裁判員たちの「市民感覚」が法廷で試される。(上田真央)