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2009年01月12日(月) 19時53分

容疑認めた、争点は「量刑」 星島被告“神隠し殺人”あす初公判 産経新聞

 昨年4月に東京都江東区のマンションで帰宅直後のOLを拉致し、自室に連れ込んで殺害したとして殺人やわいせつ目的略取などの罪に問われた同じマンションに住む無職、星島貴徳被告(34)の初公判が13日、東京地裁で開かれる。都会のマンションからOLが忽然と消えたこの事件は「現代の神隠し」とも呼ばれ、殺害の立証が難しいと予想されたが、被告は起訴事実を認める方針という。公判前整理手続きでは責任能力も認め、精神鑑定は行わない予定。争点は量刑に絞られたが、ポイントは検察の「訴因変更」にあるようだ。


 異様な事件


 事件が起きたのは約9カ月前。

 昨年4月18日午後8時45分ごろ、会社員の東城瑠理香さん=当時(23)=と同居する姉は、マンション9階の自室に帰宅するや、異様な光景に息をのんだ。

 玄関ドア付近に付着する血痕。転がるピアス。部屋の電気はついたまま…。そして東城さんがいない。

 この直前に東城さんは帰宅を告げるメールを姉に送っていた。その経緯からみて、帰宅した東城さんが何らかのトラブルに巻き込まれた疑いが濃厚に漂っていた。

 姉からの110番通報を受けた警視庁は、直ちに捜査を始める。ともかく東城さんを探し出すことが先決だ。状況からみて、拉致された東城さんがマンションの外に連れ出された形跡は薄い。どこかの部屋に監禁されている可能性が高いとみられた。

 東城さんの失踪直後から約1週間、警視庁はマンションのエントランスに約15人の捜査員を配置して出入りを制限、マンション全150戸の室内を任意で捜索した。

 が、東城さんは見つからない。

 マンションの2部屋隣の918号室に住む星島被告が逮捕されたのは約5週間後の5月25日。東城さん宅から検出された指紋が、何の交友関係もないはずの星島被告のものと判明したのが決め手になった。

 だが、東城さんはいぜん見つからない。

 被告は「殺害し、遺体をバラバラにしてトイレに流したりした」と供述したのだ。被告の部屋からは、東城さんのものとみられる血液反応が出た。

 実は警視庁は、星島被告の部屋に捜査員が事件の翌日、翌々日に立ち入らせ、トイレや風呂場から天井裏まで調べさせている。しかしこのときは東城さんの気配すら察知できていない。警視庁は「任意捜査の限界」と言ったが、5週間も捜査の時間を費やしてしまったことは痛恨の極みだ。

 その星島被告は事件発生翌日の4月19日午後、マンション前で報道陣に囲まれると、取材に応じ、約20分間、饒舌に話し続けた。

 「(東城さんは)派手な印象で、ホステスでもやっているのかと思ったが、警戒されると思って話しかけたことはない。若い女性は苦手なので…」

 「叫び声は聞こえなかった。ひとり暮らしなので怖い」

 事件に無関係であるとアピールする半面、被告には、目が泳いだり、あごをしきりになでたりするなど落ち着かない様子もあった。

 

 いったい被害者をどうするつもりだったのか


 星島被告は住居侵入、わいせつ目的略取、殺人、死体損壊、死体遺棄の5つの罪で起訴されている。

 起訴状によると、星島被告は昨年4月18日夜、わいせつ目的で東城さん宅に玄関から押し入り、東城さんの顔を殴打。タオルで両手首を縛り、ジャージーのズボンを顔に巻いて目隠しすると、首に文化包丁を突きつけ、自室に連れ込んだ。

 文化包丁で首を切って失血死させると、その遺体は翌月1日ごろにかけて、のこぎりで切断。トイレに流したり、別のマンション外のごみ置き場に捨てたりした。

 その手口は残忍としかいいようがない。

 切断された骨片の数は150超。星島被告はトイレに流せなかった遺留品や遺体の一部を、小分けにして冷蔵庫や段ボールに隠し、ビジネスバッグで持ち出した。解体作業は夜中に行い、勤務先では遅刻や早退、居眠りを繰り返していたという。

 なぜ、こんな凶行に至ったのだろうか。

 「部屋が近くて、手っ取り早いのでねらった。乱暴目的で自分の支配下に置きたかった」

 捜査で星島被告は、暴行目的の犯行だと認めた。

 ストーカーのように東城さんを偏愛していた形跡はなく、実際は姉妹2人暮らしだった東城さんを「一人暮らし」だと思い込んでいた。自宅の両隣が空き部屋で狙いやすかったことも犯行につながったようだ。

 「(捜索などの)騒ぎで解放できなくなったので消すしかないと思った」

 被告はこうも供述している。警視庁が星島被告に最初に聞き込みしたのは失踪から約2時間半後。星島被告は玄関先で応対した。この時点で、東城さんは生存しており、当初から殺害するつもりではなかった、というのだ。

 よくわからないのは、具体的な犯行計画だ。

 監禁したとして、星島被告はその期間をどの程度想定していたのか。その後は解放するつもりだったのか。捜査関係者の1人も「ずっと自分の意のままにしておくつもりだったのだろうか」と首をかしげるのだ。

 星島被告は、平成2年まで約9年間、少女を監禁し続けた「新潟少女監禁事件」と同様の犯行を思い描いていたのだろうか。

 

 「1週間前に初めて見かけた」


 星島被告は岡山市出身。4人兄弟の長男として生まれ、同県玉野市の県立高校の情報処理科に進んだ。当時からパソコンが得意で、勉強もできたという。

 ただ、おとなしくクラスでも目立つ存在ではなく、「女性と話すのを恥ずかしがっていた」(当時の同級生)という。

 卒業後は大手ゲーム機会社に就職したが退職。昨年1月から東京・お台場のプログラム開発会社に派遣社員として勤め、プログラム開発に携わっていた。ゲームやアニメが好きだったことから「アキバ系」とも言われた。

 税理士の父親を嫌悪しており、「殺したいぐらい」と話して周囲を驚かせたこともあった。

 一方、殺害された東城さんは3人姉妹の次女として長野市で生まれ、同県内の県立高校では柔道部のマネジャーを務めた。神奈川県内の私立大に進学したが、学費はアルバイトでためるという努力家ぶりだった。

 大学時代にはカナダに留学。英語が堪能で、周囲には「得意の語学を生かした仕事に就きたい」と夢を語っていた。

 卒業後は都内の広告関連会社にいったん就職。昨年1月から、契約社員として別の会社に勤め始めたばかりだった。勤務先は「企業セミナーを1人で任せようとしていた」といい、仕事への順応も早かったようだ。

 これまでの捜査の結果、両者をつなぐ接点は、「同じマンションの居住者である」という点以外は浮かび上がっていない。星島被告は事件の約1週間前に東城さんを初めて見かけ、監禁を計画したと供述しているという。

 

 「死刑求刑も」…あなたなら?


 あす行われる初公判を皮切りに公判は1月に集中的に開かれ、判決は7回目公判となる2月10日に言い渡される予定となっている。

 「神隠し」とも騒がれたこの事件の裁判のポイントはどこにあるだろうか。

 元最高検検事の土本武司・白鴎大法科大学院長は、東京地検が昨年7月17日に殺人罪で起訴した際、訴因変更で住居侵入罪にわいせつ目的略取罪を追加したことに着目する。

 「量刑判断では犯行動機が重視される。動機にも直結するわいせつ目的略取罪をあえて加えて立件したということは、検察側に極刑に近づけたい意識があることの表れだ。求刑は死刑も考えられるのではないか。それを踏まえて、裁判所は星島被告に酌量すべき事情があるかどうかを判断することになるだろう」

 土本氏は犯行手口が似ている例として、薬物を吸引させて女性10人に乱暴、うち英国人ルーシー・ブラックマンさん=当時(21)=ら2人を死亡させた事件を指摘する。この事件の被告(上告)は、昨年12月の控訴審判決で死体損壊・遺棄罪は認定されたものの、準強姦致死罪については認められず、無期懲役刑となった。

 殺人事件をはじめ重大な犯罪が対象となる裁判員制度が5月21日から始まる。

 あなたが裁判員だったら、今回の事件をどう裁くだろうか。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090112-00000558-san-soci