5月からスタートする裁判員制度に向けて昨年12月、地裁で市民6人が裁判員役を務め、模擬裁判が開かれた。裁判員になると、どんなことをするのか。法廷でどうやり取りするのか。同月から導入された被害者参加制度で、何が変わったのか——。補充裁判員に選ばれた1人として、新制度を考える。(上田真央)
今回の模擬裁判は、12月1日から施行された「被害者参加制度」を取り入れ、地裁、地検、徳島弁護士会の法曹3者が開いた。県内企業の協力で、地裁には会社員ら25人が集まり、選任手続き後、抽選で男女6人が選ばれた。
審理を行うのは、農家の男性(49)が酒酔い運転で対向車と衝突し、その男性運転手(57)を死亡させ、危険運転致死罪に問われた架空の事件。公判前整理手続きで、争点は量刑に絞られた。
畑山靖裁判長が法服を身にまとい、「さぁ、行きましょうか」と促すと、裁判官3人、補助を含めた私服姿の裁判員8人が続き、被告人が通る通路を歩いた。法定のドアが開けられた途端、傍聴席のたくさんの人が見え、緊張はピークに達した。「起立、礼」。法廷で一番高い所に座り、厳かな雰囲気に身が引き締まった。
右側に検事、証言台を挟んで反対側には弁護士が座っている。それぞれの主張に耳を傾け、それらの要点が書かれた用紙や、提出された証拠の一部が手元に届く。両者の話を聞き、メモを取り始めた。
これまで取材した裁判とは雰囲気が大きく異なっていて驚いた。現行制度では、両者はそれぞれ準備してきた書類を見ながら、証言席に向いて淡々と話しかける。ところが新制度に基づく今回の模擬裁判では、検察、弁護の両者とも、自分の発言順が来ると裁判員席(正面)に向き直り、「もし、あなたの家族が……」などと語りかけた。これまでにない光景だ。
検察は冒頭陳述で、「地点3で意識が薄れ、地点4で寝込み、地点5で危険を感じてハンドルを右に切った……」と、現場の見取り図を示しながら説明。ゆっくりとした口調だったが、それでも頭の中で整理できず、理解するのに四苦八苦した。
私だけではなかったようで、休憩中に、裁判官や他の裁判員らと事故状況を確認し合った。量刑を決めるのに大切な客観的事実とあって「聞き逃せない」と懸命になったが難しかった。
被害者参加制度スタートにより、法廷では異例だが、検事席の末席に座った遺族は遺影を抱いていた。被告人の妻が出廷した証人尋問では、遺族が証人に直接質問する場面もあった。遺族は証言台で、「できるだけ長く刑務所に入ってもらいたい」と求刑に意見を述べた。
遺族の話を聞けば、被告人が凶悪犯に見え、弁護人の話を聞けば、被告人は普通の市民で十分反省しているようにも見えた。心を右に左に揺れ動かされながら、被告人がどんな罪を受ければいいのか、考え続けた。
評議室で、ある裁判員がつぶやいた。「普通に考えたらええんやね」。判断に迷うのも普通の感覚。量刑を考え始めたが、遺族が訴える人の命の重みと、被告人の反省の度合いや今後の人生をまだ天秤(てんびん)に掛けて迷っていた。裁判員の役目の大きさを実感した。