中国東北部(旧満州)にロシア正教の一宗派・古儀式派が築いたロマノフカ村で戦後、半世紀を過ごし帰国した女性が、山口県和木町に住んでいる。同村のロシア人共同体が解体していく戦後の歴史の記述はほとんどなく、研究者が昨年秋から聞き取りを重ねている。
徳島県出身の三間令子さん(82)で、中国人の夫、閻吉昌さん(89)と1995年に帰国。支援者の縁で和木町の住宅に入り、長女の家族と暮らしている。三間さん方を先月、3回にわたり天理大の阪本秀昭教授(ロシア・シベリア史)が訪ねた。終戦の混乱や中国人社会へ移り変わる様子を夫婦に尋ね、記憶をたぐり寄せてもらった。
夫婦の話では、終戦直後に古儀式派の男性は大半がソ連軍に連行され、女性が一家の担い手に。だが、徐々に田畑や牛馬を手放し、国内外に移住するなどして人口は5年後には半減。代わりに中国人が増え、60年代半ばにはロシア人社会は完全に消えたという。
【写真説明】<上>戦前のロマノフカ村の写真を見せながら、三間さん(中央)と夫の閻さん(右)から話を聞く阪本教授<下>山添氏が1940年ごろ撮影した、ロマノフカ村の男性と狩猟したアムールトラ(阪本教授提供)