2009年01月10日(土) 15時00分
<イラク派遣>隊員の妻にも強い精神的ストレス…専門家論文(毎日新聞)
5年に及ぶ自衛隊のイラク派遣活動が昨年12月で終了した。実質的な戦地への派遣は戦後初めてで、隊員とその家族の心も揺れ動いた。防衛省の協力を得た専門家が、イラクなどに派遣された自衛官とその妻たちにインタビューして論文にまとめた。派遣された隊員本人だけでなく、その妻にも強い精神的なストレスがもたらされている実態が浮き彫りになり、隊員と家族へのメンタルケアの体制整備が急務と言えそうだ。【本多健】
調査は大学の文化人類学者がイラクや過去にPKO(国連平和維持活動)で海外派遣された経験のある三十数人の自衛隊員とその妻を対象にしたもので、論文は防衛関係の専門誌「国際安全保障」の07年12月号に掲載された。
派遣隊員と妻に共通するのは我慢。不安で心に変調を来しても、それを不名誉と考え、ため込む傾向がある。
「家族の反対があれば行かずに済む。でもなかなか言いにくい」。20代の妻は本音を語る。神経質になり、台所の換気扇の音にさえ敏感になったという。
テレビで現地の情勢が報じられると、時に涙がこみあげた。心配をかけまいと自らは連絡を控えたが、夫からの電話には絶対出たいので、入浴時も携帯電話は手放さなかった。
夫も同じだった。妻にイラクの人々との交流は話したが、危険な任務の内容を話すことは控えていた。過労の影響か、帰国後、夫は次第に仕事への意欲を失い、うつ状態になり一時精神科に通った。
91年に始まった海外派遣は、冷戦期とは異なる心構えを家族に求めた。30代の妻は「派遣までは生命の心配は全くなかった。でも行かせたい。覚悟しないと」と心に決めた。しかし、出発直前になると不安になった。「海外に行ったら強くなる」と派遣歴のある隊員の家族に励まされたが、実感がわかず苦労した。
別の30代の妻は、帰国後の夫の変化に戸惑った。生活が不規則で精神的なゆとりもない。「腫れ物に触るようだった。機嫌がいいかと思うと急に悪くなる」。夫はストレスが原因で一時入院した。医師から、自ら命を絶ちかねない状態だったと言われた。隊員の妻は夫に共感しようとする傾向が強く、心の危機は妻にも伝染しやすい。妻は「家族にもストレスがたまっていた」と振り返る。
防衛省の調査では、ここ数年の自衛官の自殺率は、90年代後半に比べ1・5倍程度に増加した。イラクやインド洋に派遣された自衛官も、一昨年までに16人が自ら命を絶った。防衛省は「派遣が動機とは特定できない」と説明するが、激しい戦闘を経験した米国兵士の3割にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が見られるという報告もある。
制服組幹部は「派遣の賛否とは関係なく、隊員と家族が悩みを語りあい、心の平安を保つ仕組みを整備する必要がある」と話した。
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