過去の苦難を乗り越えて立ち上がろうとしていた愛媛県の真珠養殖業者や新潟県のニシキゴイ養殖業者にとって、米国発の不況はカウンターパンチのようなものだった。景気の急降下は、派遣社員らの雇用問題を引き起こしただけでなく、売り上げの多くを輸出に頼る地場産業にも大きな打撃を与えていた。
◎宇和島「売り上げが3割ダウンしています。3割安くしてもらわないと買えません」
愛媛県宇和島市で真珠養殖を手がける「奥南(おくな)真珠」の役員、加賀城宗明さん(30)は昨年11月、顔見知りの加工業者からそう告げられ、がく然とした。
リアス式海岸が続く愛媛は、三重県、長崎県とともに真珠養殖の3大産地の一つ。2007年度は取引額、生産量ともに全国1位に輝いたものの、ここ十数年は苦しみの連続だった。
バブル崩壊で売り上げが激減。1994〜99年にかけて、原因不明のウイルス感染で、愛媛県では真珠を育てるアコヤガイが大量死する被害も受けた。
県下の生産額、生産量が、ともにバブル崩壊前の6分の1に落ち込む中、奥南真珠も正社員数を最盛期の60人から5人にまで減らしてきた。病気に強いアコヤガイによる真珠作りなどの努力を重ね、ようやく会社存亡の危機を乗り越えたと胸をなでおろした時に、今回の不況に見舞われた。
真珠は輸出に頼る部分が大きいが、秋の金融ショック以降、主要マーケットの欧米で売り上げが3〜4割も落ちた。
宇和島市では例年、養殖業者と流通・加工業者が一堂に会する「入札会」が12月上旬から始まる。しかし、昨年は入札会が延期され、約1か月遅れの今月19日から開かれることになった。大量の在庫を抱え込んだ流通・加工業者側が延期を申し入れたためだ。
当て込んでいた収入が得られなくなって資金繰りに窮し、県真珠養殖漁協では組合員の2割が臨時融資を受けて年末年始をしのいだという。奥南真珠も給与支払いなどのため1500万円の融資を受け、なんとか年を越した。
だが、ピンチは続く。「入札で価格が3割下がったら採算ラインを割る。養殖を続けられるだろうか」。出口の見えない不況に、加賀城さんの顔が晴れることはない。
◎山古志04年10月の新潟県中越地震の被害から、立ち直りかけていたニシキゴイの養殖業者らも、金融不況の荒波にもまれた。
同県長岡市山古志で養殖業を営む田中重雄さん(54)は「昨秋は、見込みの4分の1しか売れなかった」と肩を落とす。
田中さんは震災で1万2000匹のニシキゴイをすべて失った。その後、借金をして設備を再建。稚魚もようやく2、3歳(体長30センチ〜60センチ)に成長し、昨秋は、4000匹を商品としてそろえた。「この秋にたくさん売って、弾みをつけたい」と、1年の中で仲買人や愛好家が最も多く買い付けに訪れる9〜11月期を、胸に期待を膨らませて迎えた。
ところが、訪れたのは金融不況だった。全日本錦鯉(にしきごい)振興会によると、ニシキゴイの販売先の7割は海外だが、急激な円高も相まって、得意先のオランダ、アメリカ、イギリス、中国などの海外の仲買人や愛好家が離れていった。結局、田中さんが昨秋、販売できたのは約1000匹。赤字に終わった。
「落ち込んでも仕方ない。この不況を乗り切るまでが震災からの復興だと思って踏ん張るしかない」。田中さんは、そう自分に言い聞かせている。