昨年3月以降、東京都内のホームレス6人が相次いで襲われて死傷した事件。狙われたのはいずれも、高速道などの高架下で暮らすホームレスだった。
景気悪化でホームレスの増加が懸念される一方、行政や警察による実態把握はままならないのが実情だ。(海保徹也、安井良典)
「事件は怖いが、今の暮らしから抜け出せない……」
昨年6月、ホームレスだった福岡正二さん(74)が殺害された府中市の中央道高架下。今もここで暮らす50歳代前半の男性の口調は重い。
男性が暮らすブルーシートに囲まれた一角には、毛布や衣服のほか、10冊以上の就職情報誌が積まれる。
フリーの調査員の仕事が減って家賃を払えなくなり、ホームレスになったのは2年前。事件後、怖くなって一度は別の公園に移ったが、人間関係になじめず、2か月で元の高架下に戻った。今、冷凍食品の箱詰めなど週2回の日雇い仕事で日銭を稼いでいるが、食べるだけで精いっぱいだ。
今月2日に殺害された近藤繁さん(71)も、世田谷区喜多見の東名高速道高架下で単身生活だった。現場から約100メートルの場所で約半年前から暮らすホームレスの男性(38)は、「高架下は雨にぬれず、近くの公園にはトイレと水道もあるし、煩わしい人付き合いもない」と利点を語る。
一連の襲撃事件は、高架下で寝起きする単身のホームレスばかりが狙われた。府中市の担当者は「多数のホームレスが集まる公園や河川敷と違い、高架下で暮らす人は人間関係の煩わしさを嫌って、孤立して生活するケースが多い。それがかえって、狙われやすくしている」と分析する。
事件が起きた3市1区の自治体の担当者はホームレスの実態把握と保護を急いでいるが、いずれも、「高架下のホームレスの実態把握すら難しいのが実情」と話す。
近藤さんが殺害された現場を管轄する世田谷区では、業務委託を受けた社会福祉法人の職員がホームレスの間を回り、施設への入所を勧めている。3件の事件が起きた府中市でも、「巡回相談員」の制度を活用し、社会福祉士が市内のホームレス訪問を続ける。だが、「人に頼りたくない、などの理由で、断られることばかり」(世田谷区の担当)という。
国立市の橋の下で63歳のホームレス男性を襲った殺人未遂容疑で逮捕された高本孝之容疑者(36)は、近藤さん殺害にも関与した疑いが濃厚で、警視庁は他の4件との関連も捜査する。
「安心した」。同容疑者の逮捕を受け、調布市のホームレス男性(50)はこう語るが、自治体関係者の不安は尽きず、「景気悪化の影響か、事件があった後もホームレスの数が減る気配はない」と口をそろえる。
「『派遣切り』などが社会問題化しており、今後ホームレスの数は増えるのでは」と懸念する府中市生活援護課の担当者は「施設に移るようねばり強く説得するしかない」と語った。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20081209-206556/news/20090108-OYT1T00527.htm