世界的経済危機の影響を受けたわけでもないだろうが、2008年はIT業界でも大きなヒット商品・サービスが出ないまま終わろうとしている。
その中で数少ない「当たり」が、これまでの常識では「ニッチ商品」でしかあり得なかった「ネットブック」だ。CPUなどハードウエアの性能を抑えることで思い切った低価格を設定し、「5万円パソコン」として日本市場にも衝撃を与えた。台湾のASUSなどが先陣を切ったが、予想以上のヒットを受けて国産メーカーも生産に乗り出している。
ただしネットブックは、CPUパワーやメモリー容量が通常のパソコンに比べて非力だ。使い方としてはモバイルマシンに特化させて、外出先でのメール送受信、インターネット閲覧など専用にするのが一般的。あくまで通常のパソコンとスマートフォンの中間的な位置付けであり、多くを期待すると失望することになる。そのため、09年以降もブームが続くかどうかは不透明だ。
そのスマートフォンは、08年が日本における「元年」といえるかもしれない。
アップルの大人気商品「iPhone3D」の日本上陸。これまでビジネス用として地味な存在だったスマートフォンの利便性を、日本の一般ユーザーにも知らしめた功績は大きい。スマートフォンに関しては、携帯電話の各キャリアーとも今後の普及に期待しているようで、新製品が続々登場している。
ネットブックと携帯電話の価格はほぼ拮抗する状況となっており、09年以降通信の主役をどちらが奪うか、注目を集めている。
ウェブサービス系は不調一方、ウェブサービス系には際立ったヒットがなかった。目立ったのはプライバシー問題などで物議を醸した「Google Street View」の日本版が登場したことぐらいだろうか。
ここ数年、多数のユーザーが参加した「集合知」から生み出されたコンテンツを提供する「Web2・0」的なサービスが次々と登場して話題になったが、08年は圧倒的な注目を集める新サービスは見られなかった。仮想空間の楽しみを提供する「Second Life」も一時の大ブームはしぼみ、追従した同様のサービスも集客に苦戦している。
注目したいのは、ウェブ上でソフトを動かせる「ウェブアプリ」サービスの急速な拡大だ。高価な画像処理ソフト「Photoshop」も簡易版の無料提供が始まっているし、マイクロソフトも次期「オフィス」を、一部ウェブアプリとして提供するという情報がある。
回線速度とパソコンの性能向上でこのようなサービスが可能になったわけだが、同時に「ソフトのパッケージ販売」という旧来のビジネススタイルが限界を迎えつつある証明ともいえよう。「自分のパソコン上でソフトを動かす」という、何十年も続いた“常識”が覆る日も遠くないかもしれない。(2008年12月24日発売「YOMIURI PC」2009年2月号から)