2009年01月05日(月) 01時30分
天皇陛下ご即位20年、「国民に尽くす」貫かれ(産経新聞)
元日、午前5時半。皇居では、まだ夜も明けきらぬころから、天皇陛下が1年最初のお仕事を始められた。
「四方拝(しほうはい)の儀」。天皇陛下は、伊勢神宮をはじめとする四方の神々と山陵を遙拝(ようはい)、今年の五穀豊穣(ほうじょう)と国民の安寧を祈られた。
四方拝の儀は毎年、陛下ご自身が拝まれている。昨年末、胃や十二指腸に炎症が確認されたことから、ご負担を考慮して代拝も検討されたが、今年もご自身で臨まれた。
場所は、例年行われる神嘉殿(しんかでん)南庭ではなく御所前の庭に変更、ご装束もモーニング姿に簡略化された。とはいえ、肌を刺すような冷気のなかで執り行われることに変わりはない。宮内庁幹部は「これだけはご自身でされるのがいい、というご判断では」と話す。
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「皆さんとともに日本国憲法を守り、これに従って責務を果たすことを誓い、国運の一層の進展と世界の平和、人類福祉の増進を切に希望してやみません」
昭和天皇崩御に伴い、55歳で即位された天皇陛下は平成元年1月9日、皇居・宮殿で行われた「即位後朝見の儀」でこう宣言された。
国民に対して「皆さん」と呼びかけられた天皇陛下。その言葉に、国民は新しい時代の皇室像を感じ取った。
即位後の天皇、皇后両陛下はお二人で力を合わせ、国民と直接接する機会を大切にされた。
この20年、日本は幾度となく大きな自然災害に見舞われた。雲仙・普賢岳の大火砕流(平成3年)、北海道南西沖地震(5年)、阪神・淡路大震災(7年)、新潟県中越地震(16年)…。両陛下はそのたびにヘリコプターなどで現地入りし、被災者に直接お声をかけ、励まされた。
戦後50年の節目となった平成7年には、長崎、広島、沖縄、東京都慰霊堂への「慰霊の旅」にも赴き、原爆犠牲者や戦没者の冥福を祈られた。17年には先の大戦の激戦地、サイパン島も訪問、犠牲者を悼まれた。両陛下はこの20年間で、47都道府県すべてを巡られた。
両陛下は、高齢者や障害者と向き合われると、腰をかがめたり手を握ったりされることがある。昭和時代には考えられなかったことだ。皇室と国民との距離感は、確実に縮まった。
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国民とともに歩む「平成の皇室」。20年の歩みに通底する陛下のご信念とは、何なのだろうか。
平成8年12月から約10年半の長きにわたり侍従長を務めた渡辺允(まこと)氏(72)は、「陛下は、国と国民のために『尽くす』とおっしゃった」と指摘する。
陛下は平成10年12月18日、誕生日に先立つ宮内記者会との会見で次のように述べられている。
「…国民の幸せを常に願っていた天皇の歴史に思いを致し、国と国民のために尽くすことが天皇の務めであると思っています」
今も宮内庁侍従職御用掛として両陛下に仕える渡辺氏は、「そのお言葉通り、毎日の行事一つ一つ、会う人一人一人をおろそかにせず、丁寧になさるその積み重ねが20年の皇室像を成している」と振り返る。
陛下は今年の新年のご感想でも、「国と国民のために尽くしていきたい」という言葉を使われている。
地方のご訪問では遠くにいる人にまで手を振られ、国民との懇談では一人一人ときちんと言葉を交わされる。昭和天皇も戦後のご巡幸でそのようにされたが、さらに徹底されたように思われる。
◇
陛下は国民との関係において新しい皇室像を築かれる一方、皇室の伝統も大切にされている。
陛下が、昭和天皇にならい、宮中祭祀を厳格に執り行われていることは、意外と知られていない。
宮内庁掌典職によると、陛下は昨年、恒例の祭祀のほか歴代天皇の式年祭などにもご自身で臨まれた=表。毎月1日の「旬祭」にも地方ご訪問がない限りご自身で臨まれ、昨年1年間に陛下が自ら臨まれた祭祀は約30件にも上る。
宮中祭祀の中でも、11月に行われる新嘗祭(にいなめさい)は特に大きな祭祀だ。
陛下は、夕方に行われる「夕の儀」と、午後11時〜午前1時ごろまで行われる「暁の儀」に出席されるが、それぞれ2時間ほど床に正座し、新穀などを供えられる。かなりの激務だ。渡辺氏は「陛下は夏ごろになると、時折正座をして新嘗祭に向けた準備をなさいます」という。
陛下は国民の目に触れない祭祀の場で、国家の安寧と五穀豊穣を願われている。それは、昭和天皇をはじめ歴代天皇とも共通する「無私」のご姿勢でもある。
常に国民のために心をお砕きになる天皇陛下。学習院初等科時代からの陛下のご学友である元共同通信社ジャパンビジネス広報センター総支配人、橋本明氏(75)は、陛下が皇太子時代から折に触れて口にされた次のような趣旨のお言葉を思いだすという。
「天皇という存在は、普段は国民の心に潜在化しているのが理想。国民が個々の難題に直面したときに、その存在を思いだしてくれればいい」
古くから、天皇は民を「大御宝(おおみたから)」と呼び大切にし、国民は天皇を父のように慕ってきた。幾歳(いくとせ)を経て日本の統治機構は大きく変革してきたが、天皇陛下と国民は、今も昔も「見えない絆」で結ばれている。そのことを、陛下は誰よりも強くお感じなのだろう。
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今年は、天皇陛下のご即位20周年、天皇、皇后両陛下のご結婚50周年という節目の年に当たる。両陛下がこの20年で築き上げられた平成皇室像に迫るとともに、心配される陛下のご健康問題、皇位継承問題など、皇室が直面する課題についても考える。
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