2009年01月05日(月) 21時42分
ガザ侵攻 穏健アラブ諸国の苦悩(産経新聞)
【エルサレム=黒沢潤】パレスチナ自治区ガザ地区へのイスラエルの大規模攻撃によって住民の犠牲が拡大する中、中東諸国では、ハマスを非難するエジプトやサウジアラビアなど「穏健アラブ国家」への風当たりが強まっている。これまでアラブの分断に成功してきたイスラエルの立場をも不利にしかねない状況だ。
レバノンやイラクでは4日、イスラエル軍の攻撃に対する激しい抗議デモが行われた。4万人が集結したモロッコの首都ラバトでは、住民がエジプトのムバラク大統領を「ガザをドルのために売り渡した人物」と呼び、非難の矛先を親米の穏健アラブ国家の元首に向けた。
エジプトやサウジなどの穏健アラブ諸国がハマスに警戒心を見せるのは、ハマスに同調するイスラム過激派が自国の権力の脅威になりかねないからだ。ハマスは民主選挙を経て台頭したとはいえ、周辺国への過激思想の“芽”は、早期に摘みたいのが本音といえる。
エジプトにしてみれば特に、ハマスが6カ月にわたる停戦の延長にも応じず、ガザ支配のハマスと、ヨルダン川西岸を支配する自治政府の「分断」解消への仲立ちに応じないことが不満を強める背景にある。
しかし、アラブ民衆の目には、エジプトなど穏健アラブ諸国が「裏切り者」に映る。イスラエルによる先月末の空爆後、イランの最高指導者ハメネイ師はエジプトなどを、「大きな厄災は、一部のアラブ・イスラム国家の沈黙だ。それは(イスラエルへの)称賛ともいえる」と糾弾した。
エジプト政府幹部は「イランはスローガンを叫ぶだけ。問題解決に何ら寄与していない」と反論したが、アラブ民衆は冷ややかだ。
ハマスが今回、イスラエルとの停戦延長を拒否し、500発ものロケット弾を撃ち込んだのは、最終的に自治政府に管理されずエジプト国境を開放し、封鎖を完全に解きたいためでもある。アッバス自治政府議長の正当性を損ないかねないとして、ハマス側の要求を拒絶するエジプトはアラブ大衆の怒りに火に油を注ぐ形になっている。
先月31日、緊急開催されたアラブ連盟(22カ国・機構)の外相会合では、カタール提案の首脳会合開催案がエジプトやサウジの反対でつぶされた。サウジのサウド外相は「(重みのない)声明が発表されるだけのサミットの開催は得るものがない」とし結局、6カ国の外相が国連本部に赴く消極的対応にとどまった。
サウジにすれば、イスラエルの攻撃停止には賛成だが、シーア派のイランやシリアを後ろ盾にするハマスの人気をあおることになりかねないサミット開催を認めるわけにいかない。
これに対してイランとともにイスラエル批判を強めるのはシリアだ。トルコを仲介役とするイスラエルとの和平交渉中断を決めた。
穏健アラブ国家の存在が中東内で不協和音を作り出す中、エジプト大統領府は4日、「地上作戦を最大限非難する」との声明を発表し、“バランス”の回復に必至だ。大規模攻撃を継続するイスラエル政権にとっては、ロケット弾攻撃を食い止めなければ2月の総選挙の風向きが悪くなる。
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