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2009年01月04日(日) 12時05分

新聞を法律で守る必要あるのか 「再販制」という反消費者制度 (連載「新聞崩壊」第6回/鶴田俊正名誉教授に聞く)J-CASTニュース

 読書週間が始まった2008年10月27日、河村建夫・官房長官は記者会見で、新聞の再販制度について触れ、「制度維持することが文字・活字文化を維持することにつながる」と語った。新聞を「自由な競争」から守るという再販制度。新聞は特別に守る必要があるのだろうか。公正取引委員会の「再販問題を検討するための政府規制等と競争政策に関する研究会」座長も務めた、鶴田俊正・専修大名誉教授(産業組織論)に話を聞いた。

■オウム真理教の教祖の理論と「同一視」される

——新聞の再販制度の問題点を簡単に解説して下さい。

  鶴田 再販行為の基本的な問題点は、価格を拘束することによって、流通業の競争を制限し、小売業の営業の自由を奪い、消費者利益に反することにあります。一方、新聞業界は「再販制を廃止すると、価格競争が激しくなる。過疎地では新聞の値段が割高になって、消費者に迷惑をかける」「取材経費が圧縮されて紙面の質が低下し、民主主義の基盤が維持できなくなる」といった理屈を持ち出し、制度の維持を主張してきました。

——最近はどんな動きがあるのでしょうか。

  鶴田 1990年代に入り、競争を進める流れが出てきました。化粧品や医薬品など指定再販と呼ばれていたものは90年代中に再販ができなくなりました。新聞についても、私が座長を務めた公正取引委員会の研究会などで議論されました。結局、公取委は2001年3月、「競争政策の観点から再販制度は廃止すべき」だが、まだ「国民的合意が形成されるに至っていない」として、「当面存続することが相当」という見解を発表しました。その後、再販制の弾力的運用云々が議論に挙がっています。しかし、基本的には01年のときから事態は変わっていません。私個人は当時も今も、新聞の再販制は撤廃すべきだと考えています。

——以前国会で、読売新聞の当時社長だった渡辺恒雄さんから、名指しで批判されたそうですね。

  鶴田 1996年6月の規制緩和に関する衆院の特別委員会に参考人として出席した渡辺さんが、私を含め3人の学者の名前を挙げ「新聞なんかつぶしてやりたいと思っている、3人のイデオローグがいる」と言われました。私たちの議論を「大々的に報じない」のは、「オウム真理教の教祖の理論を長々と書かないのと同じ」なんていう表現もありました。
   しかし、私の記憶では上のようなやりとりを新聞はどこも報じなかった。私たち学者の議論に反対するのは勿論自由です。しかし、日頃は他業種の競争政策に関しては「価格を決めるのは市場や消費者」などと規制緩和を社説などで主張しながら、自分たちのこととなると「社会の公器だから」などと特別扱いを求め、反対意見も公平に扱おうとしない。こんな姿勢には当時から疑問を感じていました。
   私たちは、独自性がある新聞なら、再販制をなくしても破壊的価格競争にはならないと訴えていました。「新聞をつぶしたい」なんてとんでもない。新聞が消費者ニーズに敏感になり、その上でがんばってほしいと思っていたのです。

——渡辺さんは、なぜあそこまで強く再販廃止に反対したのでしょうか。

  鶴田 新聞の営業政策の根幹を揺るがす、と感じたのでしょう。自分たちの新聞だけを売る、つまり専売店に部数増を強く求め、大部数を維持し、それによって広告の価値をあげていくビジネスモデルですね。そして部数増のため、(販売)拡張団による強引な勧誘や景品配りをする。新聞の中身や価格で競争していないのです。まあ、拡張団の活動は現在では以前のように強引ではないようですが。いずれにせよ、そういう形で築いてきたものが崩れていくと心配されて大反対したのでしょう。

——かなり前の話ですが、「ある学者が新聞とトイレットペーパーは商品として同じだと言い放って新聞を貶めた」という趣旨の新聞記事も出ました。

   鶴田 ひどい話です。本来は、新聞側が自分たちの主張する「新聞の公共性」についてきちんと定義付けできていなかったのが問題の本質だったのです。それなのに、東大の三輪芳朗教授の言葉尻を捉え、新聞はゆがめて報じたのです。私は議事録を読んでいます。
   1995年に開催した公取の小委員会で、新聞の「特別扱い」が必要な理由などについて意見が交わされました。ある新聞社の販売局長が「新聞は公共性・公益性が高い」と表現したので、三輪教授は公共性・公益性とは何かと質問したのです。すると新聞協会関係者が「誰に対しても、どこに住んでいても確実に、しかも同じように安く手に入るという仕組みは新聞にとって大事だ」と説明しました。別の新聞社関係者は「一般大衆ほとんどの人が使う有益な商品」と答えました。
   これに対し三輪教授は、公共性というものが「あらゆる人に行き渡らなければならない」のだとしたら、「例えばトイレットペーパー」も「そうだろう」と指摘したのです。要するに、新聞社側が行った公共性の説明は「(定義として)十分ではないだろう」と言っただけなのです。

——自民党と新聞業界の結びつきが再販制存廃の議論に影響した、ということはあるでしょうか。

  鶴田 あると思います。公取委員長人事で自民党有力者と懇意な人が選ばれてから、再販廃止に向けたそれまでの議論の流れが変わったな、と感じたこともあります。

■再販制で守られたことが現在の苦境を招く皮肉

——新聞社は、ネット上で無料ニュースを相当な分量配信しています。紙では全国均一価格にこだわる姿勢とは矛盾しているのではないでしょうか。

  鶴田 そうですね。新聞の長期購読者が割引などのメリットを受けられない一方、ネットではただや極めて安い料金で見ている人がいる。紙の新聞は読まず、ネットでニュースを見ただけで済ませる人が、若い人たちだけでなく私の周囲でも本当に増えています。特色ある新聞作りをこれまでに進めていれば、紙の優位性はもっとあったはずだと考えています。

——では、再販制の廃止が認められ、各紙が競争的に独自性ある紙面作りを進めていれば、ここまで新聞も苦しくならなかった?

  鶴田 そうだと思います。新聞を守るために再販制を守ったつもりなのでしょうが、皮肉なことにその再販制に守られた中で新聞はここまで苦境に陥ってしまいました。再販制をたてに独自性を十分に発揮する競争から逃げてしまったからではないでしょうか。

——外国では新聞と再販制の関係はどうなっているのでしょうか。アメリカはありませんがなぜないのでしょう。

  鶴田 最新状況は知りませんが、以前調べたときは、OECD(経済開発協力機構)加盟の中では、日本とドイツだけでした。ほかの国で新聞の再販制がないのは、必要がないからですよ。新聞もほかの商品と同じように売買される、というだけの話です。

——公取の01年の結論では「当面」とありました。新聞の再販制度は、近頃あまり話題になりませんが、決着はもう「存続」でついてしまったのでしょうか。

  鶴田 まだ決着はついていないと考えています。新聞の特別扱いはおかしい、という考え方は底流として根強くあります。いずれまた公取は問題にせざるを得ない、と見ています。しかし、新聞社とコトを構えるのは相当エネルギーがいることなので、よほど公取のトップに腹の座った人がつかない限り、難しいかもしれません。

<メモ:再販制度と新聞>
再販売価格維持制度。製造業者(新聞社)が小売業者(新聞販売店)と定価販売の契約を結ぶことができる。独占禁止法で原則的に禁じられているが、1953年の独禁法改正で新聞や書籍など著作物は例外的に認められ、現在に至っている(法定再販)。新聞の場合、特殊指定(定価割引の原則禁止など)と合わせ、全国どこでも同じ料金という現在の状態が可能になっている。

鶴田俊正名誉教授 プロフィール
つるた としまさ 1934年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。1988年から2001年まで、公正取引委員会の「政府規制等と競争政策に関する研究会」で座長を務める。その間、「再販問題を検討するための政府規制等と競争政策に関する研究会」の座長にも就任し、公取委への提言をまとめた。現在、専修大名誉教授(経済政策、産業組織論)。社団法人「消費者関連専門家会議」(ACAP)会長。


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