2009年01月04日(日) 19時39分
いまこそ脚光浴びる「ニューデール」の町(産経新聞)
米国でエーブラハム・リンカーン大統領やジョン・フィッツジェラルド・ケネディ大統領(JFK)と比較されるオバマ次期大統領。だが、もうひとり歴代の大統領で米国民の脳裏で重なる人物がいる。1929年の大恐慌を乗り越えるため、「ニューディール」と呼ばれた社会政策を実施したフランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領(FDR)だ。
昨年秋以来の金融危機による不況をかつての大恐慌と重ね合わせるには時代が違いすぎるとはいえ、雇用が大きな社会問題になるいま、政権発足と同時に経済対策に最優先で取り組まねばならなくなったオバマ氏がFDRと似た政治環境におかれているのは確かだろう。それが発端で米国ではかつてのニューディール政策の“遺跡”が観光地になりつつある。
AP通信によると、米東部ウェストバージニア州。首都ワシントンの西にあるこの州に1930年代、ニューディール政策の一環で、都市部の失業者らが移住するために計画的につくられた全米100カ所の“入植地”の3カ所がある。州保存組合は昨年、ニューディール政策ゆかりの場所を観光地にするための事業資金として10万ドルを調達した。
“遺跡”は橋から壁、道路と幅広く、取り組みはまだ半ばだが、国家ニューディール保存協会(本部・米南西部ニューメキシコ州)にニューディール政策の遺産のある州の地図がほしいといった問い合わせの電話や電子メールが殺到する事態に、ウェストバージニア州でも観光客を引きつける知恵を絞っているという。
対象の町のひとつがウェストバージニア州北東部にあるアーサーデール。ペンシルベニア州の主要都市、ピッツバーグから南に約100キロ、車で約1時間半のところにある町で、当時つくられた住居や博物館、工房を整備して観光客を呼び込もうとしている。ファーストレディーとして慕われたDFRの妻、エレノアさんにちなんだ書籍やカレンダー、切手の販売に取り組んでいる。
ニューディール政策でつくられた住居は電気や給排水は完備され、冷蔵庫や石炭の暖炉があって1930年代の米国の地方にしてはぜいたくなつくりだという。アーサーデールにはそうした住居のうち160軒が残っており、一部は当時のままに復元された。興味深いのは台所にある容器で、住民は挽肉やソーセージをこれに詰めて「アーサーデール・ミートプロダクツ」の名称で販売していた。
アーサーデールの博物館では、リネン布の織り方や、ろくろを使った陶器づくりから、軍が敵機に想定して撃ち落とす訓練に使う凧(たこ)の製作といった住民の知られざる技能を紹介している。エレノアさんはとくにアーサーデールがお気に入りだったようで、クリスマスや卒業の時期に定期的に訪れていたという。
だが、ニューディールの入植による共同の経済活動はほとんど失敗に終わり、住民の期待も薄れていった。アーサーデールで生まれ育った男性は「1940年代には理想郷の夢はほとんど忘れられた。町がどのようにして始まったか、だれも口にせず、両親も移住してきたときのことは何も話してはくれなかった」とAP通信に語った。
ウェストバージニア州には同様の町はほかに、ファーストレディーの名をとった州中部のエレノアと、米政府の投資に利益を償還したという州東部のタイガートバレーの2カ所がある。
州北部のクワイエットデルには市民保存協会の博物館がある。ニューディール政策に関連した約250点の展示品が公開され、訪れる人が増えているという。協会は1933年から1942年にかけて、ウェストバージニア州の約5万5000人を含め、全米で450万人を雇用して公共工事や植林を行った。事業には不可解なこともあったというが、1930年代を振り返ると、米社会の危機を救うのに役に立ったと館長は話している。
一方、FDRとゆかりのある場所では、ポリオ(小児まひ)の治癒で静養した米南東部ジョージア州の熱鉱泉、ウォーム・スプリングスが有名だ。近くに建てた「リトル・ホワイトハウス」と呼ばれる保養所はジョージア州の63カ所の史跡で最も人気があり、年間10万人が訪れるという。州当局の担当者はそこまで関心を呼ぶ要因の一端が現在の政治環境や経済状態にあるとみている。当時のことを知るだけでなく、心身の静養を求める思いもあるのかもしれない。
●アーサーデール www.arthurdaleheritage.org
●クワイエットデルの博物館 www.wva−ccc−legacy.org/index.php
●リトル・ホワイトハウス www.fdr−littlewhitehouse.org
●ニューディール保存協会 www.newdeallegacy.org
【関連記事】
・
【正論】曽根泰教 ニューディール「連合」の教訓
・
不景気をぶっ飛ばせ! 韓国版ニューディール着工
・
四大河川整備に1兆円投入 「韓国版ニューディール」論争
・
オバマ経済チーム 「ルービノミクス」を踏襲か
・
オバマはルーズベルトになれるか
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090104-00000548-san-int