2009年01月03日(土) 00時06分
不況の米国、対中ジレンマ(産経新聞)
新年の米国にとって主要課題の一つは中国にどう対処すべきか、だろう。とくに深刻な経済不況からの脱却という最重要目標のうえで中国に何を期待するかは、オバマ新政権にとっても切迫する緊急課題だといえよう。その前提には中国がいまの不況にどう出てくるかの読みが必要となる。
米中両国はそもそも経済面で複雑にからみあう奇妙な互恵の関係を保つ。政治や軍事では対立し、人権問題では激しく衝突までするのに、経済となると相互依存のようなつながりを持つ。
中国は低賃金労働での製品を人民元の通貨レートの人為的な低水準設定でさらに安くして米国に大量に輸出する。その結果、貿易黒字の巨額のドルがたまる。その外貨は国内の消費や投資にはあまり回さず、米国の財務省の債券や、ファニーメイ(連邦住宅抵当公社)のような政府系機関の証券、一般企業の株式を購入する。
米国にこうして流れる中国マネーは米側の政府の財政赤字を埋め、金利を低く保ち、一般の消費をあおる。安い中国製品は米国のインフレを抑制もする。他方、中国側は高度の経済成長を保ち、自国の金融の安定をも図れるという効果を得る。
もっとも米側ではこの種の相互依存はマクロ経済の構造としては不自然だとして懸念する向きも多かった。上院民主党のチャールズ・シューマー議員らは「米中両国が麻薬中毒にかかっているに等しい」として中国製品に高関税をかける法案を出している。
そんな背景の下で米国の経済が近年でも珍しい不況に襲われたとなると、中国はどう反応するのか。この点への関心は米国議会でも高く、議会調査局では上下両院議員用の参考資料として「中国とグローバルな金融危機=米国にとっての意味」と題する報告書をこのほど作成した。その報告書の予測する中国の出方というのがおもしろい。
米側の専門家たちにはまず中国は(1)最大の貿易相手の米国経済の安定を強く望むから米国債の購入を増し、米国政府が不振企業の救済や経済の刺激に必要な資金を増やすことに寄与する(2)米国市場の重要性を認識しているから米国企業の株式の購入を増すことで米国経済の健全性を保とうとする(3)米国経済を積極的に支援することで1997年のアジア金融危機でのように世界経済の安定への寄与を称賛されることを望む−という予測があるという。
だが報告書によると、他方には中国が(1)米国の株式購入などでは多額の損失を出しているため、その増額には難色を示す(中国の政府系ファンドが2007年に米国のブラックストーン社の株式30億ドルほどを買い、株価がその後、4分の1へと急落した)(2)中国自体の経済不況が国内での投資の増大への圧力を招き、対米投資の増加を難しくする(中国内部の開発を促進して経済の高度成長を保つことが最善だとする意見が最近、中国側で強くなった)−という見方も米側には広範にある。
なによりも報告書が強調するのは中国マネーが米側の特定分野で量を増すことへのジレンマのような懸念だった。具体的には中国は(1)米側の債券や証券の大量保有を中国が反対する米側の政策へのテコに利用しかねない(中国政府高官は米国の対中貿易制裁や人民元レート操作非難への対抗策として米国債の大量売却などを示唆した)(2)米側の自動車など衰退産業の株式大幅取得によりその企業の技術や知的財産を中国側に移転する危険がある(3)米側の大企業の主要株主になると、米国内での政治的な影響力が巨大となり、国家安全保障にも影を投げる(最近、中国側が米国の石油企業や防衛関連ハイテク企業を取得しようとすると、米国の議会や政府機関までが反対した)−ことが予測されるというのだ。
報告書でみる中国の出方はまさに複雑な錯綜(さくそう)、米国側の苦慮だけがやたらと目立つのである。(ワシントン 古森義久)
【関連記事】
・
2009年景気はどうなる? V字回復にいちるの望み
・
ラウル・カストロ議長、革命50周年で演説「闘いはまだ続く」
・
【インド特集】“巨象”はどこへ インド、多様性の光と陰
・
「経済グローバル化」危機 黎明の光はいつ差すのか
・
ネット民主主義 若者が変化の風吹かせた
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090103-00000500-san-int