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2009年01月03日(土) 14時17分

「CNNが配信事業の質をあげてくれば脅威」 AP上級副社長 トム・ブレッティゲン氏に聞く産経新聞

 米ニュース専門局CNNが米国の新聞社向けに記事や動画のニュース配信業務に乗り出す準備を始めた。発行部数や広告収入減少で経営難に見舞われている米各紙、とくに中小の地方紙をターゲットに、老舗のAP通信より安い契約料を目玉に売り込みをかけている。APからCNNへ乗り換える動きをみせている新聞社も出てきている。CNNの「活字進出」をどうみているのか。AP通信のトム・ブレッティゲン上級副社長(営業担当)に聞いた。(ニューヨーク 長戸雅子)

 −−CNNは強敵になるか

 「速報や記事送信という点において、現時点でCNNが計画していることはAPの脅威になるとは思わない。CNNは12月初めに(本社のある)アトランタで地方紙の編集幹部を集めた説明会を開いたが、参加者からは配信規模など、さまざまな懸念の声が出たと聞いている(APは1日に平均して千単位での速報、記事、写真を配信しているが、CNNの1日の記事配信は当面30本程度と説明された)。しかしCNNが将来、配信事業の質をあげてくれば脅威となってくるだろう」

 −−将来の脅威ということか

 「そうだ。何よりこの経済状況が問題だ。紙媒体の購読者は減り、(紙面への)広告も減っている。だれもがコスト削減のあらゆる方法を探している。経費節減を考えねばならないが、(地元ニュースなどを取材する)記者はできるだけ確保しておきたい。となると、社外のサービスに目が向き、コストの安いサービスが好まれる。これまでもコストの面からAP以外の選択肢を検討してきた新聞社はあったが、『APの配信がなくなれば、ニュースを落とすかもしれない、品質にも影響してくる。だからとどまる』というのが結論だった。しかし、今の状況はかなりのコスト削減を新聞社に強いている」

 −−APに契約終了を求める(脱退)通知してきた新聞社もあるというが

 「すでに100をこえるキャンセルの通知を受けている。しかし、ここで契約形態について説明しておく必要があるだろう。APと新聞社の契約は『自動更新契約』といわれるもので、終了を求める書簡をもらってからも2年間は有効なままだ。というのはAPは米各紙の一部でもあるからだ(AP通信は米新聞や放送局を基盤にした組合組織の非営利法人。経費は契約している加盟社が分担している)。脱退通知は2年後に彼らがAPとの契約を終了するということでなく、2年後に取るべき選択を保留できるということだ。いくつかの新聞社が真剣に脱退を検討しているのは事実だが、それが私たちの配信サービスの質に問題にあるのでなく、経済状況によるものだと信じている」

 −−契約料を下げることは考えていないのか

 「すでに明らかにしており、2009年は総額で年間3000万ドル、15%の値下げを行う。09年の値下げはこれ以上はない見込みだが、10年にはさらに値下げできるかどうか検討している」

 −−スタッフのリストラやカバー範囲が減ることはあるのか

 「印刷や配送が必要な新聞社と違って、われわれのコストの大半は人件費だ。コスト削減は人員削減に直結するが、取材活動には影響がでないよう最小限にとどめる」

 −−この難局をどう乗り切っていくのか

 「すでに前から行っていることだが、ニュースビデオの配信など事業の多角化を進めている。それゆえ、今回も15%の引き下げが可能だった。1980年代の半ばには米新聞社からの収益は5割を占めたが、80年以降から現在は25%と半減している」

 −−名門紙クリスチャン・サイエンス・モニター(CSM、ボストン)が日刊紙としての発行をやめ、ウェブサイトやメールを主軸にしたニュース提供へ移行するが

 「CSMほどではないが、多くの米国の新聞社がウェブサイトへの移行を強めている。ウェブサイトは新聞の将来の重要な一部だからだ。地方紙では(日刊紙としての発行取りやめは)すでに試みられているが、(ボストンなどの)大都市で行われるのは初めてで注目している。読者も広告主もこの新しい形態についていってくれることを期待している」

 −−新聞は生き残れると思うか

 「思う。紙媒体はやはり便利で手軽だし、安い。経営危機に直面しているメディアグループもあるが、独立系の新聞では利益を生み出しているところもある。紙媒体は現在は中高年以上の世代に支えられているかもしれないが、フォーマットを変えることなどで、そして、ウェブサイトでのニュース提供を補完するものーに変わっていくかもしれないが、これからも多くの読者をひきつけられると思う」

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