2009年01月02日(金) 01時33分
映画「誰も守ってくれない」 現場の臨場感を伝える“揺れ”(産経新聞)
モントリオール世界映画祭で最優秀脚本賞を受賞した「誰も守ってくれない」が24日から公開される。メガホンを取ったのは「踊る大捜査線」のスピンオフ作品「容疑者 室井慎次」の監督を務めた君塚良一。今回は加害者家族の人権と保護をテーマにしたオリジナルの刑事ドラマとなる。「世の中で起きていることをありのまま観客に伝えたい」という監督が今回試みたのは全編手持ちカメラによる撮影だった。東京・池袋、静岡・伊豆でのロケを取材した。(戸津井康之)
モニターの映像は、まるでドキュメントフィルムのようにざらつき、激しく揺れていた。
早朝の東京・池袋。ロケは繁華街の雑踏で行われていた。刑事役の佐藤浩市が暴力団員を追う。佐藤らを追いかけるカメラマンの背中には、見慣れない山登りの背負子(しょいこ)のような装置が装着されていた。
走るシーンを撮る方法としては、三脚に固定したカメラを横に振る「パン」やドリー(台車)に載せたカメラで撮影する方法などがあるが、今回の現場にはどちらも見あたらない。
代わりに採用されたのが、「イージーリグ」という装置。カメラマンの背中から頭の上に釣りざおのような取っ手が伸び、その先の金属線にぶらさげるようにカメラを取り付けることができる特殊な装置だ。
イージーリグで俳優に肉薄しながら撮影すると、映画を見た人がまるで一緒に走っているかのようなライブ感とスピード感あふれる映像表現を生み出すことができる。
君塚監督がモニターをのぞきこみながら、佐藤の追跡シーンの映像を厳しい表情でチェックしていく。狙い通り、佐藤の走る映像は揺れ、激しい息遣いが聞こえてきた。
今回の現場では、事前の監督の指示で、カットがかかってからもカメラマンはフィルムを回し続けている。「俳優の自然な表情がさまざまなカットに残されているからね」と君塚監督は自信ありげに話した。大きな映像効果を生むイージーリグだが、ネックはカメラを含めた重量だ。機材は10キロを超え、撮影が長引くと、腰に負担がかかるため、カメラマンは苦しそうだ。
大都会から、旅館の立ち並ぶ伊豆へと場所を移してのロケ。この日、佐藤は古い商店街で、逃走する車両を追って走っていた。ここでもイージーリグが活躍。機動性を生かし狭い路地を動き回り、さまざまな角度から、佐藤たち俳優の表情を間近からとらえていた。
「編集の仕方次第で幾通りもの作り方ができる撮り方。どんな作品になるか楽しみです」
ベテランの佐藤でさえ、その撮影スタイルの新鮮さを実感、期待をふくらませていた。「今、われわれが作るべき重厚な社会派ドラマ。大作もいいが、こんな地味な作品があってもいい」。佐藤の表情が引き締まった。
■「誰も守ってくれない」 未成年の殺人犯に対する世間の風当たりが強まるなか、その矛先は家族にも向けられつつあった。そんななか、犯人の妹(志田未来)を警護する任務を命じられたベテラン刑事(佐藤浩市)。加害者家族の人権と保護は? 刑事の視点から、世の中の非情さ、残酷さを描く。「踊る−」シリーズでも「社会性」を追求してきたという君塚監督は今回、その世界観をさらに突き詰め、骨太の刑事ドラマを目指した。
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