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2009年01月02日(金) 11時36分

09年の中国経済見通し:中国の安定は世界の不安定サーチナ

サーチナ・新春特集:2009年の相場観−中国株

 中国共産党の指導者たちは、国民による直接選挙で選ばれたわけではないが、だからといって彼らは国民を無視した勝手な独裁政治を行っているわけではない。独裁体制国家の相次ぐ崩壊、天安門事件を経て、中国共産党は、久しく“国民の支持なくして、存続はありえない”という認識を強く持っている。見方を変えれば、中国は“中国独自の民主主義”を作り上げているといえよう。

 そうした中国において、今、最大の経済問題は何であろうか。それは“失業問題”である。過去数年間における就業人員総数は、毎年、600万人前後増えている。人力資源・社会保障部の幹部の発言によれば、2009年の求職者は2400万人に達するそうである。そもそも農村や国有企業には、大量の潜在的な余剰労働力が存在する。三農問題を解決し、国有企業改革を進めるためには、できるだけ多くの就業機会を作り出す必要がある。

 加工組立産業を中心とした輸出産業は、単純作業を行う大量の労働力を必要とする。中国の労働力、生産拠点と、外国の市場、技術が組み合わさることにより、これまで、輸出産業は大きく発展した。現在の輸出依存度は4割弱。世界のGDP(国内総生産)上位国としては、これはドイツに匹敵する高さである。就業の多くを輸出産業に依存する体制にある中国にとって、世界同時不況は大きな試練である。

 足元の経済情勢は厳しい。今後、世界同時不況はさらに厳しさを増し、輸出の減少傾向はより鮮明となろう。WTO(世界貿易機関)加盟後2008年前半まで続いた幾分高すぎる成長は、過剰投資、重複投資を引き起こした。輸出製品の国内還流も加わり、生産能力の過剰は深刻さを増し、今後、国内経済は大きなデフレ圧力に見舞われる可能性がある。

 もっとも中央政府は、7月初旬に行われた指導者たちによる沿岸地域の視察から1カ月足らずの間に、そうした状況をいち早く察知し、政策を一変させた。輸出抑制から輸出奨励への転換、人民元高誘導の停止、金融緩和、積極財政……。中央政府は、財政政策、金融政策、産業政策などあらゆる政策を用い、経済成長を支え、雇用を確保し、社会を安定に導こうとしている。国務院による4兆元の内需拡大策に、マスコミ報道によれば18兆元にも及ぶ地方政府による内需拡大策が加わり、国家主導による壮大な需要創出により、経済は支えられようとしている。

 中央政府の国債発行余力は大きく、必要となれば、地方政府に地方債発行の認可を与えることもできる。国有商業銀行については中央政府、都市銀行については地方政府が実質的な経営権を有している。銀行を通じ、十分な資金供給が可能であろう。

 中央政府主導で創出される需要は、鉄道、道路、空港、電力といったインフラ投資を中心に、地震復興、農村におけるインフラ整備や住宅整備、環境関連投資などに及ぶ。溢れた労働力を吸収しつつ、社会基盤を整備しようという狙いである。

 就業問題を解決するために必要な成長率は8%前後とされる。中国は、為替政策、輸出奨励策、特定産業の保護育成政策などを含め、あらゆる政策を駆使して、8%前後の成長率を達成しようとするだろう。

 中央政府における政策のプライオリティーは社会の安定。国内問題が優先である。かなり内向きの政策が採られる可能性がある。一方、アメリカでは、銀行、保険会社に続き、自動車メーカーをも救済しようとしている。オバマ民主党政権は自国産業の保護について、どこまで踏み込んでいくのであろうか。EUは……。

 世界が保護貿易、ブロック貿易に傾きかねない状況で、中国は独自の社会主義を実践していくだろう。中国が“社会の安定”を求めることによって、逆に世界全体が不安定になってしまう。そんなことにならなければよいのだが……。(執筆者:田代尚機 TS・チャイナ・リサーチ(株)代表取締役)

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