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2009年01月01日(木) 00時00分

新春特別編 北島三郎さん読売新聞

 シンガー・ソングライターの松任谷由実さんが、毎月1回豪華ゲストと対談する「yumiyoriな話」。新春特別編の今回は、演歌の大御所、北島三郎さんをお迎えします。ジャンルは違えど、長年トップを走り続けるスターの、歌や舞台への思いは同じ。「日本の心」についても深い会話が交わされました。(構成・祐成秀樹)


二人はゆかりの深い東京・八王子で対面(料亭「うかい竹亭」で、清水健司撮影)
「まつり」生で拝見したいんです!

 北島(以下) 着物姿がとってもすてきですね。

 松任谷(以下) 呉服屋の娘ですから、年に4、5回は着ますよ。

  俺は書生さんみたいなクシャクシャした袴(はかま)が好きだな。でも、着物は型が崩れやすいから歩きにくいところもあるね。

  面倒臭さが日本人らしさを引き出しますね。姿勢を正さないと似合わないですから。腹筋や背筋がシャキッとします。

  和服はもっと着てほしいな。若い人たちにもね。

  北島さんはモンゴルやロシア、シリアなどで親善大使的な活動をされてますね。

  25年前にブラジルで日系人用の病院を建てるためのチャリティー公演を開いた時は喜んでもらえました。最後は涙ながらに見送られて。日系の方は最近の私たちが失いつつある日本人魂を持っている気がする。

  日本人らしさ、日本人の美徳とは何でしょう。

  頑張り屋だよね。負けん気が強くて、器用で、まねがうまくて、それでいてやり手。世界で一番しっかり者じゃねえかな。俺はこれからも演歌を通じて日本の良さを伝えていきたいね。

  男心を歌われてきた北島さんにとって男とは?

  やっぱり優しさ。そして艶(つや)というか色気を欠かしちゃいけないな。

  10年ほど前、三波春夫さんにお会いした時、「明るいなあ!」ってビックリ。「SHANGRILA」を見に来て下さり、ご祝儀までいただいたんですよ。

  それは良かった(笑)。

  親に渡して仏壇に供えました。北島さんも明るいオーラがいっぱい!

  暗くても1日。笑っても1日だからね。明るく楽しくいこうと。しっとりと悲しい歌を歌う時も、その先に明るいものがあるって訴えたい。

  私が作曲家としてデビューした時、(元タイガースの)加橋かつみさんの曲を書いたんです。ロック系の加橋さんがその後、北島さんの事務所に入られたと聞いて驚きました。

  意外に好きなんだよ。他ジャンルの歌も。自分にないものにあこがれちゃうのかなあ。

  好奇心がお強い。

  俺、ライバルを上に持たない。目上の人は尊敬でいい。でも一緒にスタートした連中や後輩たちはライバルだなあ。

  ライバルを持つのは、ずっと走れる秘訣(ひけつ)ですね。

  ユーミンさんはどう?

  負けん気が強いので、勝手にライバルを作っちゃいます。

  ところで「SHANGRILA」の映像を見せてもらいました。構成・演出はどなたが?

  主人(松任谷正隆)です。彼がライバルだったりする時もあるんですが。

  照明や音響のバランスが良くて隙(すき)が全くない。さすがはプロの仕事だと思いました。

男はやっぱり優しさ そして色気

 きたじま・さぶろう 1962年デビュー。「函館の女」「与作」「北の漁場」「風雪ながれ旅」など演歌一筋で数多くのヒットを飛ばす。公演のクライマックスで歌う「まつり」の華やかな演出も評判だ。原譲二の名前で作詞、作曲も手がける。

  実は私、いまだに歌うことが苦手なんです(笑)。ステージは歌に自信のない分、演出でカバーする。ただ、自分の作った楽曲から出てきた演出ですから、派手なことをやったり、外国のアーティストを入れたりしても、自分の世界だと自信を持っています。

  私らって、物作りが好きなんですねえ(笑)。

  私「まつり」を生で拝見したいんです! 見てるだけで元気になれそうで。

  やってるほうも元気になるよ。舞台やる場合、最初からウケようとすると絶対ウケない。いろんなものを出していく、その繰り返し。最後に感謝を込めてドワーッ。するとお客さんは満足して「来年はいつやるの?」って思う。そういう作りにこだわりたい。

  今、私の生まれた八王子にお住まいですよね。朝日がきれいだから選ばれたんですか。

  建てる前はヨシの草原でした。でも空気もよくて富士山も見えた。ここへ家を建てて、2、3階を吹き抜けにした応接間でコーヒーを飲みながら、八王子の町を眺めようと思った。でも1回やったら寂しくなって、やめちゃった(笑)。

  寂しがり屋でシャイ!

  普段は誰かワイワイいたほうがいい。でも、時々、私のほかにもう一人の私がいると感じることがあるんです。そういう感覚、分かりますか。

  自分を見ている自分。

  ステージ行く時、ノッてねえなあと思うと、そいつが「しっかりしろ」って叱(しか)る。

  幽体離脱みたい。すごいリアリティーあります。

  お客様のざわめきが伝わってきた時、ガーッと風が吹いて、元気をもらう。すると一瞬全部のお客様が、もう一人の自分に見える時がある。そういうものを感じなくなって男の艶が消えたら、いつ終わってもいい。

  いや大丈夫。ツヤツヤですよ。最後の質問ですが、これから日本や世界はどうなっていくのでしょう。

  心配だねえ。上へ上へと人間が全部、大地から離れて行くような気がしてしょうがない。建物も上へ上へ行っちゃってる。花を咲かすために必要な、根っこを忘れてんじゃねえかな。根に栄養や水、肥やしもあげなかったら倒れちゃう。本質を忘れず裸足(はだし)になって、少し土の上を走ってみたらどうかな。

  急ぎ過ぎてるんですね。そうなると演歌の力が重要になる気がします。

  だから俺はこの道一筋! でも興味はいっぱい。ユーミンファンと一緒に、イヤーッと言ってみたいな!

  ありがとうございます。

「波瀾万丈」 1月1日発売

 サブちゃんの2009年を懸けるシングル「波瀾万丈(はらんばんじょう)」(クラウン)=写真=が1月1日発売に。人生は山あり谷あり。でも、希望を捨てずに生きようと、力強く歌います。


ユーミン3年ぶり 新作アルバム

 松任谷さんの3年ぶり35枚目のオリジナルアルバム「そしてもう一度夢見るだろう」(EMI)が、今春発売されることが決定しました。喜びと悲しみ、出逢(あ)いと別れ——。空港や旅先での人間模様を描いた10曲を聴くと、世界が変わり自分が変わっても明日へ確かな希望を持っていられるのは「いつもあなたと夢を見てきたから」と気付くはず。ユーミンの存在感に改めて圧倒されそうです。詳細は、http://yuming.co.jpで。全国ツアーも決定! 4月10日よこすか芸術劇場で始まり、33都市で54公演を開きます。

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プロフィル
松任谷由実  (まつとうや・ゆみ)
シンガー・ソングライター。1972年デビュー。
「卒業写真」など、長年愛され続ける曲を世に送り出す。90年のアルバム「天国のドア」は、日本人初の200万枚超えの売り上げを記録した。「松任谷由実・オフィシャルサイト」はこちら

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/yumiyori/20090101yy01.htm