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2008年12月23日(火) 09時38分

「院内学級」 復学の不安を払拭、子供たちサポート産経新聞

 ■「一日も早く退院」気力与える場

 病気やけがで入院している子供のために、病院の中に設けられた教育施設が、院内学級だ。日々、病と闘っている子供たちが、先生や仲間とふれあいながら勉強に励み、病気の克服に欠かせない存在となっている。だが、最近の少子化に加え、医療技術の進歩で長期の入院児童が減り、院内学級の存続を危ぶむ声も上がっている。小児医療の基幹センターとして知られる千葉県北西部の松戸市立病院を訪ねた。(中島幸恵)

 小児病棟内の一室に、「ひまらや学級」と名付けられた院内学級小学部がある。12月初旬、5時間目の授業「ひまらやタイム」が行われていた。

 「年賀状を書いたことないから、うまく書けない。先生、お手本書いてよ」

 「遠方からお見舞いに来てくれる担任の先生にお礼の気持ちを込めて丁寧に書いてごらん。とても喜んでくれるよ」

 9月から入院中の3年生の男児が、年賀状の下書きに四苦八苦している。隣では5年生の女児が百人一首を暗唱。書道に励む3年生の男児や、2学期の思い出を作文にする2年生の女児の姿があった。どの子からも強い熱意が伝わってくる。担任の小河徹晃教諭は、一人一人の進み具合を確認しながら、声をかけていた。

 ひまらや学級には現在、この3人のほかに、この日体調を崩して欠席した6年生の女児ら2人を合わせた5人が学んでいる。3週間入院して、この日退院した5年生の女児は「院内学級のおかげで、みんなと勉強できて楽しく過ごせた。元の学校に戻るのもあまり不安がない」と笑顔をみせた。

 ひまらや学級は、近隣の松戸市立上本郷小学校の分校として、昭和49年に開校。平成19年度は55人が学んだ。在籍期間は、病状によって3日から1年間とさまざまだ。

 授業は、入院前に通っていた学校の担任と常に連絡を取り合いながら、それまで使っていた教科書や教材を使う。基本的に一般学級と学習内容は変わらない。

 19年4月に赴任してきた小河教諭は、授業中に騒ぐ、真剣に取り組まない、といった児童に対し、「外に出て行け」と容赦(ようしゃ)なく叱(しか)り飛ばすという。「自分は病気だから、と甘えてほしくない。復学したときに困るのは自分自身であることを自覚させたい」

 一時期は10人以上の児童がいたこともある学級だが、現在は5人程度にとどまっている。小河教諭は「病気、復学といった不安を取り除くのが院内学級の役目。一日も早く退院するんだ、という気力を与える場として、これからも子供と保護者をしっかり支えていきたい」と話している。

                   ◇

 ■少子化で減少傾向

 厚生労働省の平成17年度調査によると、全国の病院で院内学級を持つ小児病棟の割合は26%にとどまり、13年度の30%に比べ、減少傾向にある。

 以前は、小児がんといった難病で長期入院を余儀なくされたことによる学習の遅れや、心理面での負担を憂慮した保護者らから、院内学級の設置を要望する声が多く上がり、各自治体の国公立病院を中心に次々と置かれた経緯があった。

 しかし、最近の少子化で入院する子供の数そのものが少なくなっていることや、それ自体は歓迎すべきことだが医療技術の進歩により入院期間が短くなる傾向にあることから、子供が集まらず院内学級の閉鎖が相次いでいる。

 院内学級へ転入するためには、主治医から学習を許可されることが条件となる。原則的には、在学していた小中学校からの転校手続きが必要だ。

 入院中の子供とその保護者にとっては、元の学校に籍がなくなり、先生やクラスメートとのつながりが切れ、孤立してしまうケースもある。このため、学校と連絡を密接に取ることや、子供のスムーズな復学につなげる支援態勢が課題となっている。

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