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2008年12月21日(日) 15時15分

グーグルの無料サービスに“落とし穴”(下)革命的なストリートビュー…すぐに反発の声産経新聞

 米インターネット検索大手「グーグル」提供の無料サービスをめぐるトラブルが相次いでいる。ネット上の地図から現場写真を見ることができる「ストリートビュー(SV)」について「プライバシー侵害の恐れがある」との懸念が広がっているだけでなく、地図情報サービス「グーグルマップ」に書き込んだ個人情報が誤って閲覧可能になっているケースも多発。子供の住所録なども流出した。「世界中の情報を集めて整理する」と豪語するグーグル側の“熱意”と、ユーザー側のスタンスに温度差はないのか、一連の問題を検証した。

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 米インターネット検索最大手で、世界の「情報覇権」を狙っているとされるグーグル。同社の会社概要には高らかにこう記してある。

 〈使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることです〉

 グーグルマップの付加機能である「ストリートビュー(SV)」もその一つだ。

 SVは、ネット上の地図で特定の地域の道路をクリックすると、地上2・5メートルの高さから撮影した360度のパノラマ写真を無料で見られる。矢印を進んでいけば、連続撮影したとみられる写真が次々と現れる。

 もちろんリアルタイムの画像ではないが、パソコンの前に居ながら「散策」も「調査」もできる革命的なアイデアとサービスだ。

 昨年5月に米国で開始、今年8月に日本と豪州へ拡大、10月からはフランスでも始まった。日本国内ではグーグルの車がカメラを乗せて走り回り、現在は東京や埼玉、大阪、京都、神戸など12地域をカバーしている。

 だが、すぐにプライバシーの問題が指摘された。

 写真では家の表札や人の顔、車のナンバーが読み取れるものが少なくない。警察官から職務質問されているように見える人、ケンカしているような男女の写真も。グーグルは通行人の顔や車のナンバーなどについては自動画像認識装置でぼかしを施しているとしているが、処理が抜け落ちているケースもある。

 「なぜ自宅が勝手に世界中に公開されるのか」

 「犯罪に悪用される可能性もある」

 そんな声が各自治体などに多数寄せられ、議論がわき起こっているのだ。

 東京都町田市議会は10月、「地域安全に関する意見書」を採択し、SVが「防犯上の不安を生む」として国に実態調査や法整備を求めた。大阪府茨木市議会や高槻市議会、奈良県生駒市議会も12月議会で、同様の意見書を採決する見通し。東京都の審議会でも議論のテーマとなっている。

 ちなみに、本家の米国ではプライバシー侵害訴訟が起きている。欧州連合(EU)データ保護監視局は懸念を表明。カナダではプライバシー保護に関する法律との兼ね合いから、現在のところサービス開始に至っていない。

■ユーザーは二極化?

 便利だが、何となく不気味−。グーグルのサービスに対し、こんな印象を抱く人は少なくないのではないか。

 ネットに詳しいジャーナリストの井上トシユキ氏は「一つの民間企業が情報を取り巻く番人になっており、非常に違和感がある。SVなどについて、『一体誰がやってくれと頼んだのか』と言われても仕方ない」と述べ、さらに「マイマップにしても説明が不親切。便利さを強調するなら、それと同等に目立つ形で注意喚起すべきだ」と話す。

 ITジャーナリストの佐々木俊尚氏も「マイマップもSVもシステムそのものには問題はないが、ユーザーに対する説明が異様に不足している」と指摘。SVについて、「問題の根源は日本とアメリカのプライバシーに関する感覚の違いがある。国民の認識が違うのだから、世界一律で基準を統一することはできない」と話す。

 佐々木氏によれば、グーグルの場合、日本法人は営業部隊で広告を売っているに過ぎず決定権がない。本社でも国情の違いをリサーチしていないとみられ、民族に会わせたローカライズ(その国にあった慣習等に合うように修正・改訂すること)が必要という。

 さらに、「ユーザーの意識とグーグルのサービス内容が乖離しつつあるといえる。今後はグーグルの提供する情報を欲するユーザーと、そうでないユーザーは完全に二極化していくと思う」と推測した。

 情報セキュリティーに詳しい東京電機大の佐々木良一教授も、「ここ1年で問題が次々と起きた背景には、メリットだけを享受してきたツケが回ってきたといえる。再び同様の問題が出てきた際に迅速な対応がとれるかどうか。そこに存在意義がかかってくる」と話す。

 グーグル日本法人の広報担当者は、サービスとユーザー意識との乖離があるのでは、との指摘について「一つの見方であり、別の多くの見方がある。職場や家庭、教育現場でもサービスの活用が進んでおり、情報の民主化が社会を豊かにすると強く信じている」とコメントした。=終わり

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