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2008年12月19日(金) 09時54分

城山三郎の遺品から手帳 生と死 じっくり見つめ産経新聞

 『落日燃ゆ』『男子の本懐』などの著書で知られる作家、城山三郎氏が日記代わりに使っていた手帳が遺品から見つかった。老境の日々がつづられている。妻の容子さんとの半生を描いて30万部のベストセラーとなった遺稿『そうか、もう君はいないのか』(新潮社)の創作メモにもなっていたという。

 手帳は、容子さんががんを宣告される前年にあたる平成10年から同18年までの9冊。同名のテレビドラマ(1月12日にTBS系で放送)の撮影にあたり、仕事場を訪れた遺族が見つけた。

 「容子、天国へ」と記された12年2月24日には、余白に青いインクの万年筆で「冴え返る 青いシグナル 妻は逝く」の句が記されている。

 容子さんをロシア語の「ё」(ヨウ)で表し「積み上げてきたものが、一挙に崩され消されてしまった思い」「花火。ёの写真を脇に置き、ベランダから遠望」などとしのぶ記述がある。「スマートで若くなって、路傍の低い塀のようなところに腰掛けている。まるで僕を待っているように。励まし、慰めるかのように」と夢に見たことも記されていた。

 城山氏が好んでいた箴言(しんげん)「静かに行く者は健やかに行く 健やかに行く者は遠くまで行く」と手書きした紙を表紙に貼った手帳もあった。昨春、79歳で死去した城山氏が、生と死をじっくりと見つめていた様子がうかがえる。

 日録は22日発売の『小説新潮』に掲載され、1月にほぼ全文を収録した『どうせ、あちらへは手ぶらで行く』を刊行する予定。新潮社の編集担当者、楠瀬啓之さんは「奥さんに先立たれた孤独を抱え、それを書くことに執着した時期だったのでしょう。甘く明るく柔らかく感謝を記した『そうか−』とは表裏のように、手帳の日録には素顔の断片がある。晩年は仕事を終えた人の余生をテーマにしていたが、自身の文学テーマに沿って自分の人生を終えた老作家だった」と話していた。(牛田久美)

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