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2008年12月19日(金) 13時08分

産経新聞、なぜ無料でiPhoneに 「失敗続き」の電子新聞チャレンジに手応えITmediaニュース

 産経新聞の朝刊全紙をそのままのレイアウトで無料で読めるiPhone/iPod touchアプリが12月12日に公開され、大きな反響を呼んでいる。公開翌日には、「App Store」の無料アプリの人気ランキングでトップに。「予想以上の反響だ」——産経デジタル取締役の近藤哲司さんは驚きを隠さない。

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 産経グループは15年前から電子新聞サービスを手掛けてきたが、「MSN産経」「iza!」など無料のWeb媒体以外はどれも成功しなかった。「何回もやめた方がいいと言われたことがある」。赤字も累積していた。

 それでも「挑戦しなければ」とiPhone版に取り組み、思い切って無料で出したものの、今回も「静かにユーザーに流されてしまうだろう」と思っていた。それだけに反響は予想外。失敗続きで「自信をなくしていた」が、手応えを感じている。

●失敗続きの電子新聞 やめない理由とは

 電子新聞サービスは試行錯誤の連続だった。1993年にスタートした「E-NEWS」は、テレビの放送波を使って新聞記事を専用端末に配信するというものだったが、端末がE-NEWS以外の用途で使えないなど不便な点があり、利用者は思うように集まらず、半年で終了した。

 2001年には専用ソフトを使ってPCで新聞をそのままのレイアウトで閲覧できる「News Vue」を、2002年にはPDA向けに配信する「Mobile産経」を始めた。どちらも有料サービスだったが、黒字化できずに撤退した。

 2005年にはNews Vueをリニューアルした「産経NetView」というサービスを始めた。配信はFlashベースで行い、専用ソフトを不要にした。価格は315円と、News Vueより低価格にした。

 だがこれも現在までの累積赤字は「億単位」と黒字化のめどは立っていない。昨年11月には、料金プランや機能を見直し、バックナンバーを見られるようにするなどリニューアルしたが、ユーザー数は数万にとどまっている。

 失敗の連続でも、電子新聞をやめないのはなぜなのか。「次の時代の新聞のあり方に挑戦しなければいけない。電子新聞が赤字だったとしても、やり足りない時点でやめてはいけない」という、産経新聞社社長の考えからだという。

●「ユーザーのポケットに飛び込まないと勝負に負ける」——iPhoneアプリの開発

 「メディアは接触時間を奪い合っている。たばこを吸うなど、ちょっとした時にも見てもらうためには、ユーザーのポケットに飛び込まないと、勝負に負けてしまう」。近藤さんはこんな危機感を持っていた。

 NetViewを携帯電話で利用できるようにしたらいいのではと考え、社内でテストしたこともあったが、携帯の画面は小さく、記事を見づらかったという。「なかなかブレイクスルーが見えてこなかった」

 そんなとき出合ったのがiPhoneだ。画面は縦・横どちらの向きでも使え、拡大・縮小も自在。無線LANで通信すれば、容量の大きなデータも配信できる。「これは今までの端末とだいぶ違うね。iPhoneにNetViewをのせてみようか」——自然とアプリを製作する話が持ち上がった。

 「NetViewは次の展開を考えないと、生き延びていけないサービスだった。できることからとにかく早くやろうと考えた」

●「とにかく見てくれ」——思い切って無料に

 アプリは、新聞のレイアウトをそのまま再現している。「新聞はレイアウトにニュースの重要度を反映させている。新聞のコアコンピタンスであるレイアウトを楽しんでもらいたい」と考えたためだ。

 これまでの電子新聞サービスは有料だったが、アプリは当面無料とした。「小出しにせず、どーんと出して使ってもらおうと思い切った」

 iPhoneユーザーは「情報感度は高いが、新聞を読んでいない層」と見る。「NetViewを知ってもらって、いろんな意見や感想をもらいたい。今回のアプリはテストマーケティング。『とにかく見てくれ』という思いだ」

 だが、ユーザーからの反響はそれほど期待しておらず「静かに流されてしまうだろう」と思っていた。「15年間で自信をなくしていたから」

 今は予想以上の反響に驚いている。無料であることを評価するユーザーが多いという。「新聞のレイアウトはやっぱり読みやすい」「普段は新聞を読まないが、意外といい」——こんな声もあった。

 アプリの無料配信は「新聞の無料試読制度のようなもの」と位置付けており、いつまで無料で提供するかは未定だ。「なんとか軌道に乗せるため、ビジネスモデルを検討中」で、有料化や新たな広告モデルを探っていく。アプリを使って「来年春までいろんな実験をしたい」という。

 「新聞を時代に合った形で提供したい」と考えており、「MSN産経」のiPhoneアプリも来年公開する予定だ。

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