◆将棋タイトル戦 21期竜王戦最終局 将棋の最高位を争う第21期竜王戦は18日、7番勝負第7局で渡辺明竜王(24)が羽生善治4冠(38)=名人・棋聖・王座・王将=に将棋界初の3連敗4連勝で大逆転勝ち。竜王5連覇を果たすとともに史上初の「永世竜王」の称号を手にした。17日午前9時、山形・天童市の「ほほえみの宿 滝の湯」で始まった最終局は7番中最も長丁場となり、両者8時間の持ち時間を使い切って翌18日19時30分に140手で終局。羽生はあと一歩のところで史上初の永世7冠の座を逸した。
最低気温が氷点下まで冷え込んだ天童市のホテルの一室に、熱気が醸し出された。額に汗をにじませた渡辺竜王の自信のこもった最後の一手は△2四角。逆転への望みを託した飛車を奪われた羽生は、姿勢を正して投了。棋界第一人者を打ち負かし、史上初の永世竜王が誕生した瞬間だ。
「防衛できて非常にうれしい。出だしが悪く、4局目は悔いを残さないように思い切り指したのが結果的にいい方向に出たようだ。信じられない」と渡辺。一夜越しの激闘を終え、安どの表情を浮かべた。
最終局は、目まぐるしく攻守が入れ替わる競り合いとなった。幾度となく苦しめられた羽生の矢倉を切り崩し、丸裸にすると、終盤戦は王手王手の連続で敵将をあぶり出した。3連敗からの逆転勝ちは将棋史上初の出来事だ。過去のタイトル戦では3連敗後に3連勝したケースは、米長邦雄8段(現・日本将棋連盟会長)が中原誠十段に挑んだ78年と、佐藤康光棋聖が羽生善治王将に挑んだ05年の2例があるが、いずれも最終局で敗れている。攻防を見届けた米長会長は「世間が羽生一色のときだけに本当に驚きました」と感嘆した。
幼少のころから将棋に親しみ、小学生名人戦で優勝したその年に、奨励会入り。中学生プロ棋士となると「将来の名人候補」との評判が広がった。そして「成し遂げるなら羽生しかいない」といわれたタイトル戦での3連敗4連勝を、その第一人者相手に達成。追い込まれた時ほど発揮する勝負強さを、大一番でも見せた。
競馬観戦とゲームを趣味とする1児の父。藤子不二雄(A)の漫画「魔太郎がくる!!」の主人公に似ていることから愛称は“魔太郎”で、本人公認済みだ。3連敗しても悔しさを晴らす気持ちを忘れずに挑み、つかんだ快挙。来るぞ、来るぞ、と言われていた“魔太郎”がついに来た。
◆渡辺 明(わたなべ・あきら) 94年、小学生名人戦に4年生で優勝。同年、所司和晴7段門下で奨励会入会。00年に15歳で4段昇段。羽生善治4冠らに次ぐ4人目の中学生棋士として話題になる。04年、20歳で初タイトルの竜王を獲得。05年、9段に昇段した。タイトル獲得は竜王5期。ほか新人王戦、銀河戦など優勝4度。24歳。東京都出身。
◆竜王戦 タイトル戦の十段戦が発展的に解消され、1988年に発足。優勝賞金3200万円は将棋のタイトル戦の中で最も高く、名人と並ぶ権威がある。永世竜王は連続5期か通算7期で獲得できる。ランキング戦が1組から6組まであり、女流棋士、アマチュアにも門戸を開いている。各組の中の成績優秀者による決勝トーナメントを行い、挑戦者は3番勝負で決める。初代竜王は島朗9段。
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