景気の落ち込みに伴い、各地の信用保証協会や金融機関には緊急融資の申し込みが殺到し、「希望額通りの融資が受けられない」「審査が予想以上に長引いている」といった不満が広がっている。本当に年が越せるのだろうか——。年の瀬が迫る中、中小企業の経営者たちは資金繰りへの不安と焦りを募らせている。(中島千尋)
年越し「会社守りたい」江戸の昔、製紙業が栄えた歴史から350社以上の印刷業者が集まる東京・北区。月刊誌などの印刷を手がける従業員8人の会社では、今年7〜10月の利益が約35万円と、昨年同期の10分の1に落ち込んだ。用紙の高騰に加え、新規の注文もゼロ。そこに取引先が倒産し、代金約250万円が回収できなくなった。
政府は10月末から中小企業の資金繰り支援策として国のセーフティーネット保証の対象を拡大し、印刷業も保証を受けられることになった。男性社長(50)もこれを利用し、今月上旬、30年以上付き合いのある信用金庫に3500万円の融資を依頼した。
ところが返事は「貸せるのは1000万円まで」。次に声をかけた信金の答えは「2500万円なら検討する」。年末の従業員の給料や手形を現金化する手数料を考えると、ぎりぎりだったが、言われた通りの額で申し込むしかなかった。
この融資が受けられなかったら、二つある印刷場のうち一つを売ることも覚悟している。融資の審査結果が出るのは今月末。「父が興した会社だけは守りたい」。男性社長は祈るような気持ちで毎日を送っている。
宝飾業者が集まる台東区の「ジュエリータウンおかちまち」。エメラルドを中心に扱う会社を経営する男性(72)はこの20年間で初めて前年の決算が1000万円の赤字に。先月の売り上げも昨年同期より80万円も少ない約60万円に落ち込み、指輪やネックレスをつぶして地金に戻し、売却して運転資金に回した。さらに自分の蓄えから1000万円を使い、残りは200万〜300万円しかない。
先月下旬にはセーフティーネット保証を利用し、信金に1000万円の融資を申し込んだ。ただ、審査結果が出るのは早くて今月20日過ぎ。案件の多さを理由に年明けになる可能性もあると告げられた。「急いでいるからお願いしているのに……」。男性の訴えは切実だ。
全国信用保証協会連合会によると、セーフティーネット保証を使った緊急融資の申し込みは先月だけで全国で14万件を超えた。うち保証を承諾したのは9万8000件余り。最終的に承諾率は90〜95%になる見込みだが、融資額が希望通りになるかどうかや、いつ融資が実行されるのかについて、同連合会は「把握していない」という。
セーフティーネット保証 最近3か月間の売り上げが、前年同期より3%以上マイナスになるなど業績の悪化した中小企業が融資を受ける際、各地の信用保証協会が100%保証する制度。融資対象であるかどうかの認定は市区町村が担当し、融資の可否を決める審査は保証協会や金融機関が行う。185業種だった対象は10月末以降、拡大され、現在は698業種。