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2008年12月14日(日) 00時10分

知識と立場駆使し巧妙 家裁書記官の文書偽造1週間中国新聞

 振り込め詐欺に使われ凍結された口座から約四百万円を送金させたとして、埼玉県警が偽造有印私文書行使容疑で、京都家裁書記官広田照彦ひろた・てるひこ容疑者(35)を逮捕してから十四日で一週間。県警は、広田容疑者が職務で培った知識と家裁書記官の立場を駆使。偽の戸籍を作成して架空の「馬場ばんば」という人物に成り済まし、判決書などの偽造を繰り返す巧妙な手口で犯行に及んだとみている。

 重要な役割を果たしたのは、京都地裁で審理したとされる架空の民事訴訟の判決書。「裁」の字をかたどった「契印」というパンチ印が押され、実在の裁判官名が書かれた精巧なものだった。

 振り込め詐欺に使われ凍結された銀行口座の名義人を相手に「馬場」が貸金請求訴訟で勝訴したとの内容。本物と思い込んださいたま地裁熊谷支部は九月、埼玉県熊谷市の銀行の口座を差し押さえて凍結を解除し、口座に残っていた約四百万円は馬場名義のネット銀行口座に送金された。

 約四百万円はその後、京都市内の複数の現金自動預払機からほぼ全額が引き出され、防犯カメラには広田容疑者に似た男が写っていた。

 一方、さいたま地裁の刑事告発を受けた埼玉県警が口座名義人「馬場」への捜査を進める中でも、広田容疑者の影が浮かび上がる。

 「馬場」は昨年九月、記憶喪失を理由に新たに戸籍を作成する「就籍」が京都家裁で認められていた。本籍とした京都府南丹市に出された許可書類には、実在の裁判官の名前とともに、担当書記官として広田容疑者の名前が記載されていた。

 「馬場」は、大阪府内の二カ所の住所地を移転した後、今年八月に大阪府島本町のアパートに入居。ガスや水道、携帯電話を契約し、健康保険証も所持していた。

 県警は十一月に「馬場」の部屋の捜索に踏み切り、広田容疑者の名前が書かれた郵便物を押収。広田容疑者に似た男が部屋に出入りしていたことも判明した。さらに、振込依頼書を送る際に郵便局に提出した伝票からも広田容疑者の指紋が検出された。

 広田容疑者は京都大を卒業後、一九九六年に事務官として京都地裁に採用され、二〇〇四年に書記官となった。県警の調べに対し「覚えていない」と否認している。

 捜査関係者は「一般人には不可能だし、思いつきもしない手口だ。架空の人物に犯行を重ねさせることで、自身に捜査の手が及ばないよう図っていたのではないか」と指摘。広田容疑者による単独犯との見方を強めている。

http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200812140050.html