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2008年12月14日(日) 17時45分

映画「スラムドッグ・ミリオネア」 テロを超え、ムンバイから話題作産経新聞

 インドのムンバイで起きた同時テロは、インドの華々しい成長の陰にひそむ厳しい現実を世界に見せつけた。一方で、同じムンバイを舞台にした映画が、今年の映画賞レースを席巻しそうな勢いだ。「スラムドッグ・ミリオネア」(ダニー・ボイル監督)。貧困や犯罪、宗教対立といった、今回のテロの背景にも通じる社会矛盾を描き、高い評価を集めている。

 「スラムドッグ」は、賞金稼ぎのためにテレビのクイズ番組に出場して勝ち進みながら不正を疑われて逮捕されたスラム生まれの青年が、取り調べを通じて自らの過酷な生い立ちとムンバイの現実を回想するというストーリー。米アカデミー賞の前哨戦となる全米映画批評家協会賞で2008年度最優秀作品賞を獲得し、一躍アカデミー賞の有力候補にのし上がった。

 原作は、外交官でもあるインドの作家、ヴィカス・スワラップの小説「Q&A」。「ぼくと1ルピーの神様」の題名で邦訳もされている。内省や懐疑とは無縁に、ただ幸せをつかもうと必死に生きるインドの若者の姿が、新鮮なタッチで描かれる。

 映画は米英合作で、ボイル監督は英国人。いわゆる「ボリウッド映画」ではないものの、おなじみの「歌って踊って」の乱舞シーンも意表を突く形で挿入されている。98年に日本でも公開されブームとなった「ムトゥ/踊るマハラジャ」と同じA・R・ラーマンの軽快なリズムに乗ってのダンスシーンに、観客は驚きながらも次第に切ない思いに誘われる−。このあたりの呼吸も見事だ。

 米メディアによると、ボイル監督はムンバイでテロが起きた11月26日、英国での試写会に参加していて、しばらく携帯電話を切っていたという。

 試写が終わって電源を入れたボイル監督の携帯には、続々と悲しいメッセージが。とりわけ襲撃された場所に映画で重要な役割を果たしたムンバイのビクトリア駅も含まれていたことが衝撃だった。

 「テロ現場の写真をみるのは、本当につらかった、だが、テロのために、世界の人々がムンバイを敬遠するようになってしまったとしたら悲しい。ムンバイは本当に気さくで、あたたかい街なんだから」。ボイル監督はそう話した。

 「スラムドッグ」にはテロ後も、絶賛といっていい高評価が続いている。「ハリウッドの伝統であるロマンチック・メロドラマを超現代的な手法でよみがえらせ、しかも舞台がインドのストリートで、俳優はほとんど無名のインド人ばかりだなんて、信じられるかい?」(米紙ロサンゼルス・タイムズ)。

 「リトル・ミス・サンシャイン」(06年)「JUNO/ジュノ」(07年)と、ここ数年続いているアカデミー賞での独立系映画の活躍は、今年は「スラムドッグ」が担いそうだ。日本では来年公開予定。(ロサンゼルス 松尾理也)

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