2008年12月09日(火) 08時45分
本当にストレージ仮想化の導入メリットはあるのか?(TechTarget)
本連載では過去2回にわたって、ストレージ全般の動向やストレージ仮想化の概念と仕組み、またストレージ仮想化の実現方式について述べてきた。最終回となる今回は、ストレージ仮想化に関するアンケート調査の結果を基に、ストレージ仮想化を取り巻く現在の状況を分析し、その導入に当たっての判断基準などについて述べたいと思う。
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●ストレージ仮想化の導入状況
徐々に注目を集めつつあるストレージ仮想化技術であるが、果たして企業における導入は進んでいるのだろうか。
アイ・ティ・アールでは、ITのさまざまな分野について専門誌の読者コミュニティーを利用したユーザー調査を定期的に実施している。対象となる回答者は、いずれも企業においてIT製品導入の意思決定にかかわっており、所属する企業は多様な業種から構成されている。本稿で取り上げているストレージ仮想化についても、2008年7月から8月にかけて行ったシステム統合に関する調査の中で項目を設けている。
全体的な傾向
まず、ストレージ仮想化の実施状況についての質問項目では、「実施している」と回答した企業は全体の中でわずか2割にも満たないことが明らかとなった。
仮想化技術の中で取り上げられる機会が多い「サーバ仮想化」の実施状況と比較すると、ストレージ仮想化の実施率(「既に実施している」という回答の割合)は、サーバ仮想化の実施率を10ポイント程度下回る結果となった。また将来的な見込みとしては、1年以内に何らかの予定があるとする割合は3.9%と、サーバ仮想化の半分程度にとどまっている。
しかし一方、2、3年以内に何らかの着手の予定があるとしている企業の割合は、ストレージ仮想化がサーバ仮想化を上回っている。このことから、ストレージ仮想化に関してはサーバ仮想化と比べ、より長期的な視点での導入計画を検討している企業が多いことがうかがえる。
企業規模別の傾向
また、従業員数を基にした企業規模別にストレージ仮想化の実施率を見てみると、規模が大きい企業ほどストレージ仮想化を実施している割合が高い。例えば、従業員数が「5000人以上」のいわゆる大企業では実施率24.1%となっており、続く「1000〜4999人」の中堅企業では21.1%と、全体での実施率15.3%を上回っている。一方、従業員数が1000人未満の企業(中小企業)では実施率が1割に満たず、大企業・中堅企業と中小企業の間でストレージ仮想化の実施率に大きな差が生じていることが分かる。
将来的な実施見込みについて目を向けると、1年以内に予定があると回答した企業の割合は、従業員数1000〜4999人の中堅企業において比較的高いものの、それでも5%前後にとどまっている。一方、2、3年以内に何らかの予定があるとした回答の割合は、同じく中堅企業を中心に全体で10%弱存在している。
これらの結果からは、ストレージ仮想化は調査実施時点(2008年7〜8月)では大企業や中堅企業を中心に一部の企業でのみ実施されているにとどまっており、将来的に実施を予定しているという企業も中堅企業を中心に全体の1割程度しか存在していないことが明らかとなった。
●ストレージ仮想化自体は目的ではない
前述の調査結果では、ストレージ仮想化は一定規模以上の企業においてニーズが見受けられることが示された。しかし、ストレージ仮想化はあくまでも技術的な手段にすぎず、それ自体が目的となるわけではないことに注意が必要である。
早急な着手が求められるストレージ関連の施策について質問した調査項目では、多くの企業で事業継続計画(BCP)のためのディザスタリカバリ(DR)や、データ量の増加で逼迫(ひっぱく)しつつあるストレージ容量を問題視し、直近の課題としていることが明らかとなった。
最も回答数が多かったのが「バックアップ/リストア体制の見直し」で、3割を超える企業が課題として挙げている。また、「ストレージ容量不足の解消」が3割弱でこれに続く。一方、「ストレージ仮想化」は14.0%で7番目という結果になった。
しかしストレージ仮想化はそもそも、バックアップ/リストア体制の強化、あるいはストレージリソースを最大限に活用するための有効な手段となり得るものだ。それを考えると、ストレージ仮想化に対する回答はより多くの企業から選択されたとしても不思議ではない。
むしろこの調査結果からは、ユーザー企業は技術的な手段に対して固執しているわけではなく、あくまでも課題の解決に主眼を置いているということが分かる。加えて、企業におけるストレージ基盤の整備や強化において、ストレージ仮想化の利用が必ずしも前提とはなっていないことも示している。
●多くの企業が期待するコストメリット
では、そもそも企業はストレージ仮想化に対して何を期待しているのだろうか。次に、仮想化を含めたストレージ統合が自社にもたらすメリットについて企業が回答した結果を見てみよう。
自社にもたらすメリットとして最も多く選択されている項目は、「ハードウェアコストの削減」「運用管理の簡素化によるランニングコストの削減」などであり、これらコストメリットを挙げる企業の数は過半数に達している。また、それに次いで「ストレージリソースの効率的な活用」が4割強となっている。
なお、この結果をさらにストレージ仮想化の実施/未実施で比べてみると、「ハードウェアコストの削減」ではストレージ仮想化を実施している企業の割合が未実施の企業よりも高く、またその差も比較的大きいものとなっている。このことから、ストレージ仮想化を実施することによりストレージデバイスの削減を実現できた、あるいはストレージ容量の効率的な配分によりハードウェアの追加購入コストが抑えられた、といった効果が実際に見られたものと思われる。
また、「ストレージ容量不足の解消」や「コンプライアンス」においても、実施企業の方がより多く回答している傾向が示されている。その中でも、ストレージ仮想化によるストレージリソースの効率的な利用は、実施前に想定した以上に効果があったともとらえられる。ストレージ仮想化による効果として、過小評価すべきではないといえよう。
一方、「電力消費量の低減や物理スペースの改善」「ディザスタリカバリ(災害対策)」、また「マルチベンダー環境の一元管理」などは、実施企業よりも未実施企業においてより多く選択されている。この傾向からは、いざストレージ仮想化を実施したものの、これらの点については導入検討時に期待していたほどのメリットは得られなかったという実態が示されているのかもしれない。
●導入障壁は初期投資コストだけではない
ストレージ仮想化には幾つかのメリットがあることがあらためて示されたが、実際にはまだ実施率の低い現状をかんがみると、注意すべき懸念事項があると可能性が考えられる。
ストレージ仮想化を含めたストレージ統合を実施するに当たって自社で存在し得る障壁について質問したアンケートの結果を見ると、初期投資コストの高さを挙げる企業が最多となり、過半数に達した。また、管理スタッフの数やスキルの不足を挙げる声も多く、4割強に達している。そのほか、費用配賦など組織間の調整や、ストレージのキャパシティープランニングの困難さを懸念する企業も少なくなかった。
この結果を先ほどと同様にストレージ仮想化の実施/未実施で比較すると、「初期投資コストが高すぎる」「運用管理担当の要員やスキル不足」では、実施企業の回答の割合が未実施企業の割合を大きく下回っている。もっとも、既に実施済みの企業では当然のことながら要員やスキルの課題はある程度クリアしているはずなので、この結果は当たり前といえば当たり前かもしれない。とはいうものの、未実施の企業から見れば、これら2つがストレージ仮想化を実施するに当たり、解決するべき重要な課題となっていることには違いはない。
一方、「ストレージのキャパシティープランニングが困難」「既存の製品/ツールが自社の要件を満たしていない」は、逆にストレージ仮想化実施の企業においてより多く選択されている。これら2つは、実施前にはさほど意識されなかったものの、実施した際に初めて明らかになった課題と見なすことができるだろう。この結果から、この2つは実施前には軽視されがちであるものの、実際には注意が必要なポイントだといえるだろう。
●導入を検討するに当たってのポイント
小規模システムでのメリット享受は困難
以上で見てきた調査結果からは、現状ではストレージ仮想化は中堅規模以上の一部の企業のみで導入されており、今後の導入を予定している企業の割合も限られていることが分かった。また、多くの企業ではディザスタリカバリやストレージ容量不足への対応が必要だとしつつも、ストレージ仮想化はあくまでもそれらの課題を解決する手段の1つとして認識されているにすぎないということも明らかになった。また、ストレージ仮想化にはハードウェアのコスト削減やストレージリソースの効率的な利用などの点でメリットが期待されているが、初期導入コストや管理者の確保などが大きなハードルとなっている。
一般的に、企業規模が大きいほどシステムの規模も大きくなり、またそれに伴いストレージで保管されるデータ量も多くなる傾向がある。一方、規模が限られた企業ではシステム基盤も比較的簡素なので、ストレージを統合管理することで得られるメリットは、大規模なシステム基盤を有する企業ほど大きくはないといえよう。
そもそも、ストレージ仮想化製品の現時点(2008年12月)での価格帯は数千万円クラスであり、さらに実際の導入に際してはそれ以外にももろもろの費用が生じる。昨今の導入状況を見ると、ストレージ基盤の刷新と同時に仮想化を検討する企業の多くでは、既存のストレージ基盤が古く、ストレージ仮想化製品に対応できないというケースが少なくない。加えて、採用するストレージ仮想化製品によっては、自社のストレージネットワーク環境を変更する必要が生じることもある。
ストレージ仮想化を導入するに当たっては、やはり仮想化製品を購入するだけでは済まず、ディスクアレイの刷新やSANの構成変更などが必要となるケースが多い。規模や製品によっては、億単位の費用が必要となる。当然、ストレージ基盤の規模が限られる中小企業では、この初期投資額に見合うメリットを享受することは困難だろう。
導入の目的を明確に
仮に大規模かつ複合的なストレージ基盤を有する企業であっても、「何をもって投資効果とするか」を明確にしておく必要がある。ストレージ仮想化の最大の効果は、ストレージリソース管理における柔軟性の向上であるが、その効果が及ぶ範囲は仮想化によって統合したシステム内に限定される。現実的には、多種多様なシステムにひも付くストレージをすべて統合するといった包括的な実装を行っている企業は、まだほとんど存在しない。逆に多くの企業では、分散型アーキテクチャにより複数のサーバで稼働する基幹系システムのストレージ群を統合するといったような、システム全体の中の一部を統合するにとどまっている。こうした状況下では、仮想化により統合されたストレージ基盤と統合されていない既存のストレージ基盤の混在環境を抱えることになり、全社規模でストレージ運用管理コストを削減する効果は薄れてしまう。
また、マルチベンダー環境の一元的な管理もストレージ仮想化のメリットとして期待されているが、実際には対応していない製品があったり、対応していたとしてもサブボリュームとして利用可能なだけで、ストレージ装置側で持っているバックアップ系の機能がまったく使えないこともあるのが現実だ。
ストレージ仮想化はあくまでも手段の1つ
何をストレージ仮想化の目的とするのか、そもそも導入によって解決を図る自社の課題とは何かということについて、洗い出しと整理を行っておくべきであろう。ストレージ仮想化は手段としてのテクノロジーであり、あくまでも目的を実現するための選択肢の1つでしかないという点を忘れてはならない。逆に、ストレージ仮想化を1つの手段として冷静に見ることで、その長所と短所を見極めることができよう。
ストレージ仮想化の実施には、当然コストが発生し、その額は決して少なくない。導入を検討する企業は、自社の課題を見極め、必要な施策を冷静に判断することで効果的な投資を実現していくことが望ましい。
<筆者紹介>
●雪嶋貴大
株式会社アイ・ティ・アール アナリスト
南山大学経済学部卒業。
ユーザー企業にて情報システム部門の業務に携わった後、2005年にアイ・ティ・アール入社。幅広い分野にわたってリサーチおよびコンサルティング業務に従事する。
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