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2008年12月09日(火) 21時56分

苦しみ、いつまで 「想定外、残念」とあいりちゃん父中国新聞

 「無期懲役でも受け入れる覚悟だった。苦しみがさらに長引くのか」。審理を差し戻した九日の広島高裁判決。極刑を求め続けた父親木下建一きのした・けんいちさん(41)は「想定外で残念」と漏らした。

 主文言い渡しの瞬間、あいりちゃんに「結論が出なくて残念だったね」と語り掛けた。ひざの上に乗るのが好きだったまな娘を抱くように、ピースサインでほほ笑む小さな遺影を抱え、傍聴席に座った。

 控訴審で「なぜあいりだったのか」の答えが明らかにされると信じ、法廷に通った。今回の判決は「区切りになると思っていた。非常に複雑だ」と困惑を隠さなかった。

 一、二審の被告人質問で「悪魔に支配された」と繰り返し、ペルーでの前歴も黙秘したトレス被告(36)。「とても反省しているとは思えない」と怒りが増した。判決の朗読中も不可解な言動が目立つ被告を見て「無期以下は受け入れられない思いが強くなった」。

 二〇〇六年六月、初めて記者会見し「性犯罪抑止につながるなら実名を出し、被害実態を報道しても構わない」と訴えた建一さん。

 「あいりだけの裁判ではない」。性犯罪の被害に遭った女性の思いを代弁しようと闘ってきた姿勢は、同じ被害者の共感を呼び、賛同する署名が国内外から寄せられた。

 だが、胸の内では「極刑を求め続けるのは苦しい。合法的であっても、娘の命を奪った被告と同じことにならないか」と葛藤かっとうがあった。

 一方で「被告が反省しないまま社会に戻ってきたら、再び被害者が出るかもしれない。無力な幼い子どもを狙った性犯罪は厳罰にされるべきだ」との思いも頭を離れなかった。

 一審の法廷では、ハンカチにくるんだ遺影。「もしかしたら、被告をもう怖がっていないかも」と、控訴審ではそっと包みを外した。「次の裁判に期待するしかない」。気持ちを奮い立たせた。

http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200812090348.html