2008年12月04日(木) 15時11分
寂しさを紛らわすため…元AV女優が薬物に手を出した理由(産経新聞)
「打ち込んでいた仕事を辞めて、空虚な気持ちがあった。やりがいのない仕事を前に進めるために手を出した」「不幸が重なり寂しくなっていた」
証言席に座った被告は、消え入りそうな声をなんとか振り絞るように、薬物に手を染めた理由を告白した。自宅に覚醒(かくせい)剤や大麻を隠し持っていたとして、覚せい剤取締法(所持)違反と大麻取締法(同)違反の罪に問われた元AV女優で、犯行当時キャバクラ嬢だった倖田梨紗=本名・菊地有紗=被告(23)の初公判が3日、東京地裁で開かれた。
■写真で見る■ 倖田梨紗被告の自宅から押収された覚醒剤と吸引器具
金色にピンクのメッシュを入れた髪を無造作に結んだ倖田被告。身につけた上下紺のジャージーは少しゆったりとしており、きゃしゃな体形を際立たせる。顔は青白く、薬物依存を続けた逮捕前の生活が見え隠れする。
検察側の冒頭陳述によると、倖田被告は昨年7月ごろ、寂しさを紛らわすために覚醒剤を使おうと思い、(AV女優時代の)昔の仕事仲間に密売人を紹介してもらった。その後、月に1回程度のペースで密売人から覚醒剤を購入していたが、今年8月ごろ、交際相手の男性から勧められたことから、大麻も使用するようになったという。
まずは、証人として倖田被告の母親が証言台に立った。証言を続ける母親の姿を目(ま)の当たりにし、倖田被告は持っているハンカチで何度も目や鼻をぬぐった。
弁護人「(倖田被告の)逮捕は何が原因だと思いますか」
倖田被告の母親「寂しさがあったのだと思います。(倖田被告の)祖父が亡くなり、私もパーキンソン病が発症しました。いまよりも(私の)状態が悪く、(娘の相談)話を聞くような状況ではありませんでした」
いま都内で倖田被告の祖母と2人暮らしをしているという母親。倖田被告の社会復帰のため、娘を引き取り、しっかりと監視することを誓った。
続いて被告人質問が始まった。倖田被告は目を真っ赤に腫らしながら、寂しさに押しつぶされていった心の内を吐露した。
弁護人「覚醒剤や大麻に手を出した原因は」
倖田被告「不幸が重なり、寂しくなったことが原因です」
弁護人「不幸とは」
倖田被告「祖父が亡くなり、母もパーキンソン病にかかりました。打ち込んでいた仕事を辞めてホステスになりました。そのころ、大事にしてくれていた彼氏とも私から別れてしまい、自分のことしか考えられなくなり、寂しさに負けました」
倖田被告はホステスの前の職業を自ら口にすることはなかったが、逮捕後の警察の取り調べなどから、“打ち込んでいた仕事”とはAV女優のことを指すものとみられた。AVの仕事は好きだったようだが、なぜ辞めたかは、法廷で明らかにはしなかった。
弁護人「薬物に手を出し始めたころ、病院にも行っていましたね」
倖田被告「精神的におかしくなっているとは思いましたが、認めたくありませんでした。落ち着いたときに病院に行きました」
弁護人「医者にはなんと言われましたか」
倖田被告「自律神経失調症と不安神経症です」
東京・高輪で1人暮らしをしていたという倖田被告。周囲に相談できる相手はいなかったようだ。
弁護人「家族に相談はしましたか」
倖田被告「していません」
それまで我慢していた感情があふれ出してきたのか、涙がこぼれ、声もとぎれとぎれになった。
倖田被告「祖父が亡くなり、お母さんも病気だったので、相談ができませんでした。薬(覚醒剤)をしているので、(申し訳なくて)祖父の遺影を見ることができませんでした」
弁護人「どのように薬物に手を出したのですか」
倖田被告「友達がやっていたのを知っていて、悪いものだとは分かっていましたが、頼ってしまいました」
弁護人「薬物については、いまどのように考えていますか」
倖田被告「何に関してもダメにするもので、家族や友人を傷付けます」
AV女優引退後に東京・六本木のキャバクラ嬢に転身した倖田被告。周囲には芸能関係者も多く、交友関係は派手だったとされる。交流がうわさされた芸能人らは倖田被告の逮捕後、インターネット上で風評を書き込まれるといった影響も出た。
弁護人「逮捕前の環境は薬物が身近だったようです。今後はどうしますか」
倖田被告「携帯電話の番号を変えて、連絡先も教えません」
弁護人「実家に戻って何をしますか」
倖田被告「まずは病院に通って病気を治したいです」
弁護人「以前の仕事に戻りたいという気持ちは」
倖田被告「ありません」
弁護人「また不安定な状態になるかもしれませんが」
倖田被告「1人で抱え込んだことで、このような状態になりました。頼れる存在、自分を信じてくれる家族や友人に相談します」
検察側は、「継続的に使用するなど薬物への依存が進んでいる」として懲役1年6月を求刑、弁護側は寛大な判決を求めて結審した。
この後、裁判長はすぐに判決を言い渡すことを宣言。倖田被告が初犯であり反省も深いとして、懲役1年6月、執行猶予3年を言い渡した。
裁判長が判決を言い渡す間、被告人席の倖田被告は、深くうなずきながら耳を傾けていた。家族のもとに戻り、どのように生活を立て直していくのだろうか。心のすき間を埋めるやりがいを見つけることが、再出発のカギとなりそうだ。(大泉晋之助)
◇
【法廷から】が本になり、小学館から出版されました。表題は『男はなぜパンツ一丁で郵便局に押し入ったのか トンデモ裁判傍聴レポート』(産経新聞社会部取材班著)。税込価格1365円です。これまでアップした記事から厳選した上、判決内容もフォロー。書籍化のため新たに書き下ろした記事も掲載しています。全国の書店などでお求めください。
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