2008年12月02日(火) 08時31分
ウィルコム ドコモ網使いデータ通信 次世代PHS“穴埋め”狙う(フジサンケイ ビジネスアイ)
PHS(簡易型携帯電話システム)事業者のウィルコムが、来春開始する高速無線通信サービス「次世代PHS」で、提供開始が遅れる地方エリア向けに、NTTドコモの高速通信網を活用したデータ通信事業を開始することが1日、明らかになった。法人向けデータ通信でトップシェアを持つウィルコムだが、同分野での競争が激化しており、新サービス開始までに競合のドコモ網を使い、顧客引き留めを図る必要があると判断した。
次世代PHSは、最大毎秒100メガ(メガは100万)ビットの高速通信が可能な次世代無線通信規格。2009年4月に都心部で試験サービスが提供され、10月には「大都市圏で商用化される」(ウィルコム)。パソコン用の高速データ通信サービスや、道路上のカメラなどに通信機器を設置し、動画配信サービスなどが提供される。
ウィルコムはサービス提供エリアを順次拡大し、13年3月末までに人口カバー率を92%に引き上げる計画だが、サービス提供開始時期は地域により数年間の差が生まれる。そのため同社では、ドコモの「3.5世代」と呼ばれる高速通信網を借り、毎秒7.2メガビットのデータ通信サービスを提供する計画。他社回線を借り通信事業を展開する事業者はMVNO(仮想移動体通信事業者)と呼ばれるが、既存の携帯・PHS事業者がMVNO事業に参入するのは初めて。
ウィルコムは現在、法人向けデータ通信サービスで約4割のシェアを持つが、既存サービスの通信速度は最大毎秒800キロビットと、ドコモ回線の約10分の1にとどまる。一方、同分野では既存の無線通信事業者のほか、MVNO企業も多数参入し競争が激化。ドコモ回線を使う7.2メガの高速通信も、すでにインターネットイニシアティブやアッカ・ネットワークス、NTTコミュニケーションズが参入するなど攻勢をかけている。
ウィルコムは既存顧客の次世代PHSへの移行を促しつつ、サービスが利用できない顧客に対してはドコモの高速通信を提供し、他社への流出を防ぎたい考えだ。
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【予報図】
■大手にはMVNO参入制限も
今回の事例は、既存の無線通信事業者が自社の通信インフラを補完するために、MVNOを積極活用する可能性があることを示唆している。総務省のMVNO推進策を背景に、MVNO企業は原価に近い金額で通信インフラを活用することができる。今後、インフラ整備の体力がない企業が、MVNOを選ぶケースが増えそうだ。
ただ巨額の投資が必要なインフラ整備を各社が避けるようになれば、通信サービスの品質低下を招く可能性もある。
MVNOは本来、多業種の企業による無線通信サービスへの参入を促し、競争を活発化させることが目的で導入された。大手の通信事業者に対してはMVNO参入を制限するなどの施策も必要になりそうだ。(黒川信雄)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081201-00000034-fsi-ind