2008年11月30日(日) 00時42分
テロ鎮圧後も課題 印パ緊張、米は戦略再考か(産経新聞)
【ムンバイ=宮野弘之】インド西部ムンバイでの同時テロ事件は29日、武装勢力の鎮圧作戦が終了した。今後の焦点は、武装勢力とパキスタンとのかかわりの有無だが、パキスタン軍統合情報部(ISI)などの関与が明らかになれば、インドがパキスタンに対する姿勢を強め、核保有国である両国間の緊張が再び高まるのは必至だ。また、国際テロ組織アルカーイダ掃討を掲げ、両国との同盟関係を強化してきた米国は、戦略の見直しを迫られる可能性もある。
29日昼、現地のテレビを通じ、インド治安部隊の責任者が、タージマハルホテルに立てこもっていた武装勢力を排除し、3日間に及ぶ鎮圧作戦が完全に終わったと述べると、市民には安堵(あんど)の表情が戻った。
ただ地元メディアは、今回のテロについて情報機関が事前に情報をつかめず、さらに治安部隊の投入が遅れたために大惨事となったとして政府の不手際を一斉に批判。野党もシン政権のテロ対策を弱腰と非難しており、事件の一応の解決を受けて政権批判はさらに強まる勢いだ。
それだけに、シン首相としても事件の真相解明では厳しい姿勢を示すしかない。28日にはギラニ・パキスタン首相に対し、ISI長官を初めてインドに派遣するよう要求。パキスタン側はいったんは承諾したものの、同日夜になって長官より下のレベルを送ると知らせてきた。
今回のテロで拘束された犯人らは、パキスタンに拠点を置く過激派組織ラシュカレトイバとのかかわりを自供。インド側は同組織をつくったISIの関与を疑っており、長官の派遣を求めたのも真相究明のためだ。今後のテロ対策ではISIの影響力をいかに抑えるかがカギだっただけに、長官派遣の撤回で、パキスタン側の姿勢に逆に不信感を募らせる結果となった。
シン首相は30日に野党も含め全政党の代表を集め、今回の事件について説明するが、国内では各州議会選の最中ということもあり、厳しい政権批判と同時に、パキスタンへの強硬な姿勢を迫る声が相次ぎそうだ。
米紙ニューヨーク・タイムズは29日、「パキスタン政府の対応が遅れれば、インド軍がパキスタン国内にある武装勢力のキャンプを攻撃する可能性もある」と指摘した。
一方、米国の民間情報機関「ストラトフォー」は、米国とインドがパキスタン政府への圧力を強めることにより2002年のインド国会議事堂爆破テロのときのように、印パ両国が核をもって対峙(たいじ)する事態になる可能性があると警告。米印両政府に対し、パキスタンの現政府がテロ対策で断固とした対応を取れるよう協調することを提言している。
ブッシュ米政権だけでなく、オバマ次期大統領もアルカーイダ掃討で、印パ両国の協力を得ることを不可欠とするが、今回のテロを受けた対応次第では、テロの拡散や核の脅威が現実のものとなる可能性もある。
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