記事登録
2008年11月30日(日) 00時13分

「論理の飛躍」解明なるか 小泉容疑者、逮捕1週間中国新聞

 元厚生次官ら連続殺傷事件は、銃刀法違反容疑で小泉毅こいずみ・たけし容疑者(46)が逮捕されてから三十日で一週間。供述は「飼い犬のあだ討ちだった」と一貫し、警察当局は三十四年前の飼い犬の死が直接の動機になったとほぼ断定した。だが、なぜ殺意の矛先が元次官に向いたのか。「論理の飛躍」(捜査幹部)の解明には、なお時間がかかりそうだ。

 ▽裏切り

 一九七四年四月五日。当時小学生だった小泉容疑者は、喜び勇んで保健所へと向かった。

 前日、飼い犬の「チロ」が保健所に連れて行かれた。生きていることが分かり、「返してほしい」と職員に直談判すると、「明日になったら渡すから」と諭されていた。

 だが、行ってみるとチロは殺処分になっていた。「大人に裏切られた。家族を殺された」。小泉容疑者はこの時の出来事をそう供述したという。

 小泉容疑者が三十代前半のころ、直接その話を聞いた会社の元同僚は「手続きだからできないという役人の態度が許せなかったのだろう。流すことができない人間だから、ずっと引きずっていたのではないか」と振り返る。

 ▽高級官僚は悪

 「やつらは今も毎年、何の罪の無い五十万頭ものペットを殺し続けている」。報道機関にあてたメールで、小泉容疑者は動物を殺処分する行政機関への憎悪をつづった。

 ペット行政の根拠となる「動物愛護管理法」は環境省の所管で、当初は「元厚生次官を狙うのは筋違いではないか」との見方もあった。

 しかし、動物の殺処分は、厚生労働省が旧厚生省時代から所管する「狂犬病予防法」にも定めがあり、ある捜査幹部は「小泉容疑者は頭がいいし、勘違いしているわけではない」と強調する。

 「高級官僚は悪だと思った」とも供述しているが、警察当局は当初から山口剛彦やまぐち・たけひこさん(66)や吉原健二よしはら・けんじさん(76)ら元厚生官僚トップだけを狙う計画だったとみている。

 ▽着火点

 犬の話になると涙を流しながら冗舌になるという小泉容疑者。「チロのあだ討ちで供述がぶれない。これはもうほかに動機はないのだろう」。捜査幹部の一人はそう話す一方で「三十四年前の犬への思いがずっと持続するのか」と首をひねる。

 犯行を具体的に計画した時期は明らかになっていないが、小泉容疑者が昨夏から国会図書館に通い、元厚生次官らの住所を職員録で調べていたことが分かっている。

 失職後しばらくたった時期と重なり、約三百万円の借金を抱えていたことから、金銭的な困窮も事件の遠因となった可能性があるとみられる。

 警視庁の捜査幹部は「確かに何らかの着火点はあったのだろう。ただ、捜査一課のベテラン調べ官をもってしても、それは分からないかもしれない」と話している。

http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200811300134.html