元厚生次官ら連続殺傷事件は、銃刀法違反容疑で
▽裏切り
一九七四年四月五日。当時小学生だった小泉容疑者は、喜び勇んで保健所へと向かった。
前日、飼い犬の「チロ」が保健所に連れて行かれた。生きていることが分かり、「返してほしい」と職員に直談判すると、「明日になったら渡すから」と諭されていた。
だが、行ってみるとチロは殺処分になっていた。「大人に裏切られた。家族を殺された」。小泉容疑者はこの時の出来事をそう供述したという。
小泉容疑者が三十代前半のころ、直接その話を聞いた会社の元同僚は「手続きだからできないという役人の態度が許せなかったのだろう。流すことができない人間だから、ずっと引きずっていたのではないか」と振り返る。
▽高級官僚は悪
「やつらは今も毎年、何の罪の無い五十万頭ものペットを殺し続けている」。報道機関にあてたメールで、小泉容疑者は動物を殺処分する行政機関への憎悪をつづった。
ペット行政の根拠となる「動物愛護管理法」は環境省の所管で、当初は「元厚生次官を狙うのは筋違いではないか」との見方もあった。
しかし、動物の殺処分は、厚生労働省が旧厚生省時代から所管する「狂犬病予防法」にも定めがあり、ある捜査幹部は「小泉容疑者は頭がいいし、勘違いしているわけではない」と強調する。
「高級官僚は悪だと思った」とも供述しているが、警察当局は当初から
▽着火点
犬の話になると涙を流しながら冗舌になるという小泉容疑者。「チロのあだ討ちで供述がぶれない。これはもうほかに動機はないのだろう」。捜査幹部の一人はそう話す一方で「三十四年前の犬への思いがずっと持続するのか」と首をひねる。
犯行を具体的に計画した時期は明らかになっていないが、小泉容疑者が昨夏から国会図書館に通い、元厚生次官らの住所を職員録で調べていたことが分かっている。
失職後しばらくたった時期と重なり、約三百万円の借金を抱えていたことから、金銭的な困窮も事件の遠因となった可能性があるとみられる。
警視庁の捜査幹部は「確かに何らかの着火点はあったのだろう。ただ、捜査一課のベテラン調べ官をもってしても、それは分からないかもしれない」と話している。