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2008年11月30日(日) 00時00分

【動き出す制度】(3)パート・中小 対応に差読売新聞

「休むと家計に響くかも…」

裁判員制度について話し合うパートの女性と男性店長(仙台市のヤマザワ長町南店で)=池谷美帆撮影

 買い物客でにぎわう山形市内のスーパー「ヤマザワ」松見町店。店の奥にある水産作業室で、パート社員の伊藤しずかさん(51)が魚を切り身にするため、忙しく包丁を動かしていた。午前8時半から7時間、週5日の勤務。パートを始めて7年間、よほどのことがない限り、休んだことはない。

 「1日でも休むと家計に響く」と心配する伊藤さんは、裁判員候補者に選ばれても裁判所に行くつもりはなかったが、「パートさんも有給休暇が取れることにした」と副店長から言われ、「会社が支援してくれるなら、行ってもいいかな」と思うようになった。

 山形・宮城両県で60店舗を展開するヤマザワは今年4月、パート社員約2200人を含む全社員を対象にした「裁判員特別休暇制度」を設けた。菱沼喜信秘書室長は「パート社員が3分の2を占めるわが社で、裁判に参加しやすい環境を整えるには、正社員だけに有給休暇を認めるのでは意味がなかった」と説明する。

 パートやアルバイト、契約社員らの非正規雇用者は昨年、全国で1732万人おり、雇用者全体の3分の1を占める。裁判員や裁判員候補者に選ばれた時、こうした人たちに有給の特別休暇を与えるかどうかについて、企業の間で対応が分かれている。

 岩手銀行(盛岡市)や七十七銀行(仙台市)、山梨中央銀行(甲府市)はパートにも正社員と同様の有給休暇を与える。これに対し、運輸関連会社や大手銀行の一部は、パートや契約社員が裁判の証人や選挙の立会人などの公務に従事する場合、従来、有給休暇扱いにしてこなかったことを理由に、有給の対象から外す方向だ。百五銀行(津市)はパートについて、正社員と異なり無給にするものの、欠勤扱いにはせず、昇給に影響が出ないよう配慮した。

 労働環境などを調査する民間機関の労務行政研究所は、「雇用形態が複雑になる中、企業は働き方に合わせた裁判員参加への便宜の図り方を考える必要がある」と指摘する。

 正社員の取り扱いについては、大手企業と中小企業で差が開き始めた。

 読売新聞の主要100社アンケートでは、7割以上が有給の特別休暇を社員に与えることを決めた。配偶者が裁判員に選ばれた時に社員が有給休暇をとれる仕組みを導入した大手企業もある。

 一方、東京商工会議所が先月、中小企業約300社を対象に行った調査では、「休暇制度を導入・検討している」は24・6%。1年前の調査と比較して約3倍になったとはいえ、「裁判員制度への対応は何もしていない」も60・8%に上った。

 さらに、米国発の金融不況の影響が中小企業にのしかかる。町工場が集まる川崎市高津区。大手電機メーカーの試作品の部品を作る「ミクロ技研」では、ここ数か月、注文が目に見えて減った。清水裕史社長(46)は「従業員5人のうち1人でも欠けられたら困る。今は裁判員どころではなく、休暇制度までとても考えられない」と表情を曇らせた。

 企業訪問を重ね、裁判員制度への協力を要請してきた刑事裁判官は言う。「候補者へ郵送された通知に同封される調査票などを使って、中小企業や非正規雇用の人たちの事情を出来る限りくみ取る工夫をしなければならない」

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20081128-033595/fe_081130_01.htm