2008年11月28日(金) 09時08分
「mixiを小さなインターネットに」 招待制・“18禁”廃止の狙いを笠原社長に聞く(ITmediaニュース)
完全招待制をアイデンティティとしていたSNS「mixi」が、サービス開始5年目にして招待制を撤廃する。2009年春から、招待状なしでも利用できる登録制を導入。18歳以上としてきた年齢制限も緩和し、今年12月10日から、15〜17歳でも利用できるようにする。
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運営元・ミクシィの狙いは、競合するSNS「GREE」や「モバゲータウン」への対抗だろうか。両サービスは招待不要で参加でき年齢制限もないため、10代を中心とした若年層に支持され、ユーザー数・収益面で急成長してきた。
mixiもユーザー増加のペースを速め、10代の取り込みを急ぐのか——笠原健治社長は「そうではない」と否定する。「この施策で爆発的にユーザーを増やしたいという意図はない。短期的な利益も追求していない」
狙いを読み解くカギは、同時に発表したオープンプラットフォーム「mixi Platform」の推進にあるという。mixi Platformを利用し、外部開発者がmixi向けにさまざまなアプリケーションやサービスを構築する際、ユーザーの基盤となるソーシャルグラフ(人と人とのつながり情報)は、友人関係や同級生、会社の仲間、親子など、できるだけ多様な方がサービスの可能性が広がる。
ユーザー層が拡大し、オープン化したmixiは「小さなインターネットのようなもの」だと笠原社長は言う。「インターネットというプラットフォーム上の、もう1つのプラットフォームにしたい」
●35歳以上、地方在住——mixiが“取りこぼした”層
そもそもmixiはなぜ、完全招待制だったのだろうか。「誰かに誘ってもらった方が、操作方法を教えてもらうなどしてスムーズに楽しめる。マイミクをたどっていけば友人・知人も見つけやすい」というのが一番の理由だったという。
サービス開始当初は「招待制だと安心感が高い」とされていたが、「1500万ユーザー以上が利用している現在『限られた空間だから安心できる』というのはあてはまらない」のが実態。スパムメッセージなどをまき散らす業者は「招待制の壁はやすやすと越えている」ため、招待制でユーザーを守ることはできなくなっている。
その一方で、招待制ではユーザー層が広がらないという悩みがあった。mixiユーザーは20代・首都圏が中心。「mixiに参加したいのだが周囲にユーザーがいない」という問い合わせもコンスタントに届いていた。「mixiに一歩離れたコミュニティーに飛び火しづらかった。登録制の導入で、35歳以上や地方在住の人にも広がるのではと期待している」(笠原社長)
招待なしで入会した場合、最初は孤立無縁で楽しみ方が分からない可能性がある。対策としてユーザーインタフェースを分かりやすくしたり、初心者向けガイダンスを充実させるほか、「友人の検索を支援するような新サービス」(原田明典mixi事業部長)を導入し、1人で入会したユーザーもすぐに知り合いを見つけられるようにする。
マイミクに縛られない新しい人間関係も作る。「mixiの交流は日記が中心。今は(日記を見せ合う関係の)マイミクという1つのソーシャルグラフしかないが、人間関係はもっと多様だ」(原田事業部長)。新たな人間関係の具体像は明らかにしていないが、マイミクより“浅い”関係でつながれるようになりそうだ。
「1ユーザー当たりの平均マイミク数は24〜25だが、Facebookは70〜80人、MySpaceはさらに多い」(原田事業部長)——新たな人間関係を作ることで既存ユーザー同士のソーシャルグラフ拡大も狙っているようだ。
●未成年の日記は「マイミク限定」、コミュニティ参加不可能
mixiは18歳以上限定サービスとして運営してきた。「年齢に厳密な意味はなかったが、サービス開始当時(2004年春)の基準で、コミュニケーションスキルやネットリテラシーが付いた年代が18歳だろう」(笠原社長)と考えてのことだったという。入会時に年齢確認をしていたわけではなく、実際には18歳未満のユーザーが年齢を詐称して利用するケースもあったようだ。
ユーザー層拡大のため、以前から18歳未満への開放を検討していた。低年齢層に広げることで、親子間コミュニケーションでの活用も期待できる。だが既存ユーザーからは「未成年がコミュニティに入ってくれば荒らされてしまう」と心配する声もあり、慎重に検討してきた。
今回、まずは比較的リテラシーが高いと考えられる15歳以上に開放。トラブルを防ぐため、ユーザーサポート体制を大幅に強化する。18歳未満のユーザーは日記がデフォルトで「マイミクのみに公開」になるほか、コミュニティの閲覧・投稿はできない、友人検索の結果に表示されない——といった強い制限も加える。代わりに18歳未満限定サービスを提供するなどし、正直に年齢を申告するインセンティブを作る。
「モバゲータウン」や「GREE」では、充実したアバターやゲームが未成年を引きつけている。だがmixiはアバターを導入する予定はないもなく、ゲームを必要以上に増やす計画もないという。
「アバターを使ったSNSはより匿名性が高く、バーチャルなコミュニケーションツールになっているが、mixiは同じ学校の友達や親子など、リアルな人間関係をつなぐコミュニケーションツール。仮想空間は目指さない」(笠原社長)
●ユーザー増の先にある「オープン化」
招待制を廃止したり未成年に開放しても、ユーザー増のペースが急速に速まるとは考えておらず、入会キャンペーンのようなことを行う予定もないという。「mixi本来の楽しみ方をしないような“間違った”使い方のユーザーを急に増やしても意味がない。じわじわ広げたい」(笠原社長)
ユーザー層拡大の狙いは、友人や家族、趣味の仲間など、現実の人間関係に裏打ちされたソーシャルグラフを広げること。背景にはサービスのオープン化——mixi Platformの拡大戦略がある。
mixi Platformは、Googleの「OpenSocial」に準拠したSNSプラットフォーム。すでにOpenIDに対応したほか、来春には、外部の開発者がmixi用のアプリケーションを開発できる「mixiアプリ」と、mixi以外のサービスや端末などでmixiのデータを活用できる「mixi Connect」を本格スタートする。開発者はmixiユーザー向けに多様なサービスを開発でき、広告や課金などで収益も得られる。
mixiアプリでは例えば、マイミク同士で対戦できるゲームや、限定したマイミクだけで共有できるスケジューラーなどが開発されると期待する。mixi Connectでは、mixiのフォトアルバムの写真をPCに接続したフォトフレームで再生したり、ネット対応テレビで閲覧したり——といったサービスの登場も期待。開発パートナーに資金援助するファンドも設立するという力の入れようで「新しい市場を作っていきたい」と笠原社長は意気込む。
「ユーザー層拡大とmixi Platformは車の両輪」(笠原社長)——mixi Platformで有用なアプリが開発されても、使ってくれるユーザーがいなければ意味がない。ユーザー層を拡大し、“マイミク未満”の関係まで包括する巨大なソーシャルグラフを構築すれば、それぞれの人間関係でサービスへのニーズが生まれ、mixiアプリやmixi Connectの利用が活性化すると期待する。ユーザーやアプリが増え、コミュニケーションがさらに活発になれば、アプリへの課金や広告閲覧数増加が同社の収益拡大にもつながる。
ユーザー層拡大とオープン化で、mixiは「小さなインターネット」を目指す。「インターネットというプラットフォームの上に、人間関係を基軸にした小さなプラットフォームができるイメージ。リアルな友人知人、家族がつながるコミュニケーションインフラにしたい」(笠原社長)
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http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081128-00000036-zdn_n-sci