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2008年11月27日(木) 00時28分

【定額給付金】「毒」に酔うか倒れるか 麻生首相の勝算?産経新聞

 麻生太郎首相が景気対策の目玉として打ち出した「定額給付金」をめぐり迷走が続いている。「4人家族に6万4000円」と銘打ったシンプルなバラマキ政策になぜ首相は魅了され、何が原因でこれほど混乱したのか。政権の求心力低下も指摘されるが、首相に動じる様子はない。「春が来ればすべて分かる」。この自信はどこから来るのか−。(石橋文登)

 ◇制限は想定外

 「厳しい経済情勢の中、家計への緊急支援を第一目的として総額2兆円の定額給付金を実施します。すべての市町村の協力が不可欠ですのでご協力を…」

 26日昼、東京・代々木のNHKホールで開かれた全国町村長大会。首相がこうあいさつすると客席から「給付金をやめろ!」とヤジが飛んだ。首相は顔色一つ変えずに言葉を続けたが、町村長の会合での首相批判は異例だ。給付金配布という煩雑な事務作業に加え、所得制限の判断まで押しつけられたことへの不満の表れといえる。

 これほど混乱が生じた原因は、所得制限の是非をめぐり、政府・与党の足並みが乱れたことに尽きる。

 首相が10月30日に定額給付金を「全所帯に実施する」と明言した際は所得制限などまったく念頭になかった。

 ところが、翌31日の政府の経済財政諮問会議では民間委員から「中低所得者に的を絞った対策が適当ではないか」(三村明夫・新日鉄会長)など所得制限を求める意見が続出した。この会議は「財政規律派」の牙城(がじょう)だけに、首相のバラマキ路線を牽制(けんせい)する狙いがあったようだ。

 首相が会議中に異を唱えなかったこともあり、与謝野馨経済財政担当相は11月1日の民放番組で「高い所得層の人にお金を渡すのは生活支援に反する」と所得制限に踏み切る考えを表明した。支給額の積み上げを狙う公明党がこれに乗じたこともあり、「お金持ち」批判にさいなまされていた首相は所得制限に傾いていった。

 だが、所得制限による歳出削減効果は乏しい上、配布窓口となる市町村の混乱は必至だ。侃々諤々(かんかんがくがく)の議論の末、最終的に「市町村の判断に委ねる」形で事実上の見送りが決まったが、後味の悪さは否めない。

 ◇定額減税の原型

 では、なぜ首相は定額給付金に踏み切ったのか。

 この政策の原型は「定額減税」だった。福田康夫前首相が8月初旬に内閣改造を行った直後から公明党が強く求めてきた政策だが、大型減税を持論とする首相が幹事長に就任したことで一気に現実味を帯びた。

 自民党的な発想でいけば、一番公平な減税策は「定率減税」となる。にもかかわらず、低所得者層により手厚い「定額減税」に首相が歩み寄ったのは、次期衆院選をにらみ「民主党のバラマキ政策に対抗するにはこれしかない」と踏んだからだ。

 9月24日に麻生政権が発足し、議論はいよいよ本格化したが、定額減税では減税効果は翌年春の確定申告時まで表れない。このため減税分の「前倒し給付」が浮上、さらに所得税を減免されている低所得者層まで給付対象が拡大されていった。

 これにより定額給付金は社会保障政策の色合いが強まった。定額減税がベースならば、所得制限という発想が出るわけがない。議論の原点を忘れたことが混乱の要因となったことは間違いない。

 ◇好感触で勝算

 野党やメディアは「選挙目当てのバラマキ」と手厳しく、与党に沈滞ムードが漂ったが、ここにきて変化が現れつつある。

 ある自民中堅は「地元に戻れば『いつ支給されるのか』と定額給付金の話ばかりだ。来年になれば期待はますます膨らむよ」。民放関係者は「ワイドショーで定額給付金を批判すると『庶民の気持ちが分かるのか』と抗議が殺到する。実は世間では結構受けがいいんだ…」と打ち明ける。

 小渕政権が平成11年に地域振興券の支給に踏み切った際もメディアは「天下の愚策」と批判したが、10年暮れに20%台だった内閣支持率は半年後に50%台まで回復した。地域振興券の支給は高齢者や子どもに限定され、原資は6200億円に過ぎない。2兆円を全世帯に給付すればどれほどの効果が表れるのか。どうやらこの辺りに首相の勝算があるようだ。

 だが、民主党の小沢一郎代表は通常国会で「最終決戦」を挑んでくることは確実であり、そう簡単にバラマキを許してくれそうにない。ある派閥領袖級は不安そうにこう語った。

 「バラマキの効き目は強力だが、身体をむしばむ毒薬でもある。首相はどこまで飲み続けるつもりなのか…」

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