裁判員には、大半の県民が選ばれる可能性があり、富山地裁は昨年6月から、大手企業や各団体、農協や漁協などを訪問し、休暇制度の創設や社内環境整備などによる制度への協力を求めてきた。大手企業の一部は特別休暇の運用を変えるなどしたが、不安を抱える人も少なくない。
北陸銀行(本店・富山市)は、社員が裁判員に選ばれた際に利用できる有給休暇「裁判員休暇」を創設する。全行員2545人(昨年度末)のほか、パートタイマーや派遣社員も適用の対象だ。さらに全支店に、制度の解説のため法務省が作成したDVDを配布、制度の理解に努める。
NTT西日本富山支店(富山市)は4月、裁判員に選ばれた社員が有給の特別休暇を取れるように規定を変更。インテック(富山市)や富山地方鉄道(同)なども特別休暇を適用する。
しかし、大手と違い中小企業や農漁業関係者は、裁判員に選ばれた従業員が休暇を取ることによる影響を懸念する。
滑川商工会議所は、零細企業の経営者が選ばれた際の人手不足を心配し、「夫婦だけで経営している企業もあり、急な納品依頼があったときに仕事が回らない」と話す。魚津漁協も「漁船の船長が選ばれたら、船を動かせない。できれば引き受けたくないという漁師も多い」と打ち明ける。
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また、乳幼児を抱える母親が裁判員に選ばれた際、裁判期間中の一時保育も必要だ。地裁は県内各市町村に、住民サポートの整備を依頼したが、自治体側の動きは鈍い。
地裁が7月に協力を依頼した富山市は、現行の一時保育制度で対応する方針。一時保育を実施している16か所の市立保育所のうち1か所を利用対象とする計画だ。複数の保育所に利用希望者を分けると、家からの距離などでサービスに偏りが出るためだ。
このほかの市町村も、特別に制度を設ける動きはなく、現在の保育制度で対応する見込みだ。「どのようなサポート制度がいいのか、明確ではないので、動きようがない」(小矢部市)という意見が目立つ。
地裁総務課は「サポート体制作りを強要はできない。制度を周知し、協力してもらうしかない」と話す。
来年5月21日の制度導入に向け、今月28日には裁判員候補者名簿への登録通知が県民2200人に送付される。選ばれた県民の不安解消も今後の課題だ。
(おわり)
(この連載は浅川貴道、下里雅臣、川上賢、武田裕藝が担当しました)
※禁止事項 裁判員法は、裁判員候補者が選任手続きの日に休むことや、裁判員が公判のために休むことを理由にした解雇などを禁じている。
裁判員への干渉や不利益を防ぎ、公平な判断ができるように、裁判員の名前や住所など個人情報の公開も禁止。裁判員自身も公表できない。ただ、家族などの近親者や、休暇を取るため上司に伝えることなどは認めている。裁判員やその親族らを脅迫した場合には2年以下の懲役、20万円以下の罰金が定められている。
また、法廷内の審理の内容や裁判員の感想は公表出来るが、評議室内での具体的な意見など評議の内容は一切公表できない。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/toyama/feature/toyama1227279936308_02/news/20081126-OYT8T00014.htm