2008年版ギネスブックの認める世界一高い木は、米カリフォルニア州のセコイアという杉の仲間で、約115メートル。東京農工大の生原(はいばら)喜久雄教授(森林生態学)は「杉の根は基本的に真下に伸びる垂直根。地質次第で斜めにも伸びて、長さはいろいろ」と語る。
並木道のポプラは柳の仲間。20メートルの高木だが、北海道立林業試験場によると、根は10メートルほどで地表浅くはうため安定はよくない。
一方、610メートルになる東京スカイツリーはいま、地中50メートルの深さまで、少し変わった根を伸ばしている。
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宙に浮く宇宙船のような画像は、スカイツリーと周囲の商業施設を下から見た基礎部分のイメージ図だ。低層部が三角柱のツリーと同様、根っこに当たる基礎も、地中に三角柱の壁が伸びている。1辺は約70メートル。棒状の杭(くい)でなく、地中約50メートルまで伸びる「壁杭」が、大樹を支える。
事業主体の東武タワースカイツリー社は、複数のゼネコンに基本設計を示し、見積もりや施工計画を競わせた。受注を勝ち取った大林組の売り物は、基礎工事に提案した同社自慢の地中連続壁杭工法だった。
「国内最大の実績を持ち、細く空に伸びるツリーを支えるにはベストの工法」。大林組の佐藤眞弘・特殊工法部長は胸を張る。
壁杭は地中深く掘った溝に、縦40メートル幅4メートル厚さ1メートルの鉄筋のかごを沈め、コンクリートを流し込む。この長い壁を次々密着させて造るのが連続壁杭だ。同社は1960年夏、技術陣が国内のダム工事現場で見たイタリアの工法の研究に着手。独自の工法を確立し、改良を重ねてきた。
埋め立て直後の軟弱地盤と、硬い岩盤のどちらにも強いのが特長。丸の内ビルディングや東京国際フォーラム、TBS放送センター。さらに、関西国際空港の人工島にも使われている。
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壁杭にはもう一つの工夫がある。最下部で、壁の両面に「刀のつば」のように飛び出した「節」がそれだ。この節は、厚さ1・2メートルの壁杭の両側に2か所ずつ、40センチ突き出ている。
この節は、大林組が実用化した「ナックル・ウォール」。03年から開発を進め、04年に高層マンションの基礎杭として採用した。
地震の大きな揺れでは、高層建築の基礎部分には引き抜く力や、押し込む力が加わるが、「この節を付けることで、こうした力に効率よく、強力に抵抗する」(佐藤部長)という。土中に埋めた刀を引き抜こうとすれば、つばが引っかかって邪魔をするように。
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50年前に竹中工務店が建てた港区の東京タワー(333メートル)の基礎は、だいぶ違う。約4000トンの塔を支える4本の脚の下に、直径約2メートル、長さ約15メートルのコンクリート円柱を8本ずつ打ち込んだ。深さは23メートル。
その上に、1辺約10メートル角のコンクリート基礎を据えて塔脚の台座とした。
一方、大林組が連続壁杭工法で過去に建てた最も高い建築物は、豊島区の豊島地区清掃工場の約210メートルの煙突。スカイツリーの高さは“未知の領域”になるが、佐藤部長は自信を見せる。「実際の壁杭を使った試験で検証して、良い結果を得ている」からだ。
昨年末、ツリーの建設地で、壁杭1本が地中約50メートルに造られた。節の付いた杭はジャッキで実際の負荷をかけて押し込まれたり、上から引っ張られたりした。
「地盤が弱い墨田区にタワーを建設するのは到底認められない」。新タワーの誘致競争では、ほかの立候補地から、そんな攻撃も受けていた。だが、試験の結果、設計当初の想定より地盤は頑強で、説得力のあるデータを得られた。佐藤部長は「実際に検証したことで、自信を持って建設に取り組んでいる」と語った。