2008年11月24日(月) 01時16分
<元次官宅襲撃>動機「ペット」なぜ? 詳しい解明今後に(毎日新聞)
容疑者出頭で急展開した元厚生事務次官宅連続襲撃事件。銃刀法違反容疑で逮捕された小泉毅容疑者(46)は「保健所にペットを殺され腹が立った」と供述しているが、事件の重大性からかけ離れた内容で、なぜ元次官襲撃へ発展したのかはっきりしない。本当にこれだけが動機なのか、詳しい解明はこれからだ。【樋岡徹也、加藤隆寛、曽田拓、林哲平】
■書き込み
「34年前、保健所に家族を殺された仇(あだ)討ちである!」「逃げる気は無いので今から自首する」
TBSや日本テレビなどのホームページに22日夜、小泉容疑者のものとみられる書き込みがあった。
小泉容疑者の父親は「小学生のころ、野良犬を餌付けして可愛がっていた。『人様にかみついたらどうする』と保健所に電話して連れていってもらった」と話す。書き込みは、このことを指しているとみられるが、46歳になった男がペットを巡る積年の恨みを「元事務次官への殺意」に結びつけることがあり得るのか。
■識者の見方
ペットの件が動機につながっているとしても、専門家の見方はさまざまだ。
「常人には理解しがたい事件だ」と話す評論家の室伏哲郎さんは「犬を処分され、多感な思春期に大きなショックを受けることは想像できる。何らかの機会にその恨みがけた外れの大きさではじけてしまったのかもしれない」と指摘する。
一方、小宮信夫・立正大教授(犯罪社会学)は「動機のルーツはペットかもしれないが、自分が置かれた境遇への怒りをどこかにぶつけたいと考えたのだろう。通常は所属している集団や特定の人間に向かうが、人間関係が希薄なため、社会に向かったのではないか」と分析。そのうえで「社会の象徴」として、年金のニュースなどで騒がれていた厚生労働省の元次官が標的になった可能性を指摘する。
ノンフィクション作家の吉岡忍さんは「動機はあくまでも年金問題などへの不満や不信なのではないか」と話す。不満を募らせる中で、忘れられなかったペットの件が引き金になったとの見方だ。
小泉容疑者の精神面により着目した見方もある。「一つの物事にこだわって妄想を膨らませ、重大事件を起こす例は過去にもある」との指摘だ。例に挙げられるのが、74年8月に神奈川県平塚市で起きた「ピアノ殺人事件」。団地に住む男が「ピアノの音がうるさい」と腹を立て、階下の母子3人を殺害した。 作田明・聖学院大客員教授(犯罪心理学)は「ピアノ殺人事件で男は『騒音が自分に向けられている』と思いこんだ。小泉容疑者も妄想的に考えを飛躍させたのではないか」と指摘。
藤本哲也・中央大教授(犯罪学)も同様の見方を示す。こうしたケースでは、恨みを全く的外れの人に向けてしまうこともあるという。藤本教授は、出頭やネット書き込みについて「劇場型(犯罪)に類し、自己顕示的な側面もある。周到な一方、血のついた靴で歩き回るなど、あまり証拠を隠そうとしていないのは捕まることを恐れていないから」と分析する。
◇本当に単独か、背後関係は…警察、慎重に捜査
小泉容疑者は、二つの事件で3人を殺傷したことを認める供述をしているという。しかし、本当に単独で事件を起こせたのか、何らかの背後関係がないのかははっきりせず、警視庁や埼玉県警の捜査本部は慎重に裏付け捜査を進めている。
警視庁野方署捜査本部は23日、小泉容疑者が血のついたナイフを所持し、「自分が殺した」と話したことから、殺人未遂容疑で小泉容疑者の自宅と車を家宅捜索した。捜索では血のついた手袋も見つかり、両事件への関与を明確にするため、小泉容疑者の所持品と現場の遺留品の照合を進めている。中でも、刃物や手袋についた血痕のDNA鑑定で被害者の血液と一致するかが鍵になる。
現時点で他の容疑者の存在は浮かんでいない。しかし、無職なのに一定の収入があったとみられるなど不可解な点もあり、単独で起こしたかどうか追及する。
動機については「ペットの恨み」があったとしても、なぜ元次官を標的にしたのか、被害者との接点は浮かんでいない。小泉容疑者が父親あてに出した手紙の内容が解明の手がかりと見られる。
両事件への関与が明確になれば、事件の重大性から、警視庁と埼玉県警が合同捜査本部を設置し、事件の全容解明にあたる可能性もある。【長野宏美】
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