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2008年11月24日(月) 18時33分

振り込め詐欺犯の独白(下)「被害者も幼稚ないじめられっ子」産経新聞

 「融資保証金詐欺だけでなく、あらゆる振り込め詐欺の手口に精通した」。警視庁巣鴨署に勾留されている男(52)=詐欺罪で起訴=はこう豪語する。

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 「振り込め詐欺が社会問題になったのは平成15〜16年ごろからだと思うが、それ以前の社会問題にヤミ金があった」。法定金利の上限を大幅に超える金利で貸し付ける無許可の金融業者「ヤミ金」の“残党”が始めたのが振り込め詐欺のルーツだという。

 「あるグループがヤミ金で使った多重債務者のリストを利用し、さらに金をだまし取ることを考え、始めた。これが融資保証金詐欺の発端だ」

 振り込め詐欺はヤミ金に続き大きな社会問題となった。「振り込め詐欺をやっている連中も、元ヤミ金出身者が多い。そういった連中が地元のワル仲間を“業界”に誘ってグループを大きくしていった」

 金も高級ブランド品も簡単に手に入るから、なかなか足を洗えないという。

 「オレオレ詐欺や還付金詐欺の場合、1人が1日100〜500人に電話するのが一般的だが、電話をかけるだけだから若者にもやりやすい。融資保証金詐欺はダイレクトメールを送って備える“待ち”の詐欺だが、郵送費など軍資金が必要になる。ある程度の組織をつくらないといけない」

 男は自分の共犯だった若者たちを見て、「悪意のなさ」に驚いたという。「最初は『だませるのか』と不安があっても、先輩の指導の下、いとも簡単にだませてしまう。自分のやっていることが悪いことという認識がなくなっている。『だまされる大人たちが悪い』と言わんばかりだよ」

                  ◇

 これら詐欺行為を支援するのが携帯電話や銀行口座といった犯行に必要なものを提供する「道具屋」だ。警察庁は全国の警察に道具屋の積極的な摘発を指示している。

 「道具屋とは警察が勝手に作った言葉。犯行グループの道具は細分化していて多岐にわたる」

 「携帯屋、口座屋、名簿屋、代行屋、印刷屋、まき屋、転送屋、私設私書箱などだ。こういった連中がグループに群がって犯行を支える。振り込めは大きな産業になっているといえる」

 融資保証金詐欺と架空請求詐欺の場合、ダイレクトメールや手紙を送るため、名簿屋から購入する「多重債務者名簿」が必要不可欠となる。「名簿屋は、ヤミ金上がりの若者が店から持ち出したデータを売るケースから本格的な業者までピンキリ。オレオレ詐欺や還付金詐欺の場合、高齢者のリストで十分足りるからさほど重要ではない。最近では名簿屋を使わず、通常の電話帳や電話番号が収録されたパソコンソフトを使って、片っ端から電話する犯人も多いと聞く」

 犯行グループが重宝するのが代行屋だ。「箱、いわゆる事務所を借りる際の名義貸しを行う業者だ。手数料は家賃の4カ月分が相場。月々の予算からも上前を取る。だから10件もこなせば相当なもうけになる」

                  ◇

 男は逮捕されてから、250日が過ぎようとしている。

 詐欺を繰り返す“日常”が一変したのは今年2月27日のこと。日課の朝のコーヒーを飲もうとしたとき、玄関のベルが鳴った。警視庁の捜査員だった。「逮捕状が出ています」。共犯者の供述で、男の関与が浮かび上がったのだった。

 「『あいつ、最近いないな』と思ったら逮捕されていて、私の名前を話していたんだ。私は本名を使っていたから、簡単に分かってしまった」

 詐欺罪での起訴はほぼ終わり、公判が始まっている。「私が司法の場で裁きを受けるのは当然。私を失った妻や娘は社会的な制裁を受けた」

 それでも男は口を開いた。報道機関にきれいごとを言って裁判所の心証を良くしようとしているのか、改心の一環なのか、真意は分からないが、「被害を抑止することが願いで、究極の目標はすべての詐欺被害の撲滅」と強調する。

 「私は被害者の方に申し上げたいことがある」。前置きし、語った。

 「だます側も幼稚な手口だが、だまされる側も大人の姿をした幼稚ないじめられっ子だ。普通の社会人ならとても引っかからないような言葉でだまされるわけだから、被害者にも責任はある。この現実から逃げていたら被害の撲滅などありえない。幼稚なトークにだまされてはいけない。自分のお金は自分で守らなくてはいけないと思う」

 だます側がいて初めてだまされる人が生まれる。数々の男の言葉は被害者にとって身勝手な言い分だが、巣鴨署で「1番」と呼ばれる男は、それが被害者への「冒涜(ぼうとく)」だと認識している。

 (森浩、川畑仁志が担当しました)

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