2年前、壱岐に初めて弁護士がやってきた。浦崎寛泰さん(26)。日本司法支援センター(法テラス)の壱岐法律事務所(壱岐市郷ノ浦町)で働く、岐阜県出身の弁護士だ。
来島してから担当した刑事事件は26件。法律相談は多重債務だけでも296件に及び、離婚問題なども含めると、相談は常に1か月待ちの状態だという。
裁判員裁判は審理の迅速化のため連日開廷となる。裁判員の負担は減るが、弁護士の負担は増える。
裁判員裁判のすべての事件で公判前整理手続きが行われ、初公判までに争点を整理するなど大部分の訴訟準備を終えなければならない。準備が前倒しとなる上、長崎地裁での打ち合わせも増える。
実際に今年、担当した2件の刑事事件が公判前整理手続きの対象となり、長崎市に4連泊することもあった。公判が開かれるたびに準備をしていたときに比べると格段に忙しくなり、壱岐を不在にする日も多くなった。「事務所を離れると、資料も少なく、公判準備も難しくなる。体力的にも想像以上に負担は大きい」とため息をつく。
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現在、壱岐、五島、対馬にいる弁護士はそれぞれ1人。法テラスにより来年1月から各1人の増員が決まった。
県弁護士会は起訴までを離島の弁護士が担当し、それ以降は長崎市の弁護士が引き継ぐリレー方式や、離島と長崎市の弁護士が一緒に事件を担当する複数人方式などを提案する。
しかし、弁護士が入れ替わるリレー方式の場合、被告と弁護士との信頼関係も含めて、弁護活動の引き継ぎがうまくいくのか疑問も残る。複数人方式についても、地元の弁護士が事件に詳しい場合、本当に負担軽減になるのかという指摘もある。さらに、こうしたことが結果的に被告の不利益とならないか、懸念されている。
「可能な限り、最初から最後まで責任を持って弁護したいが、刑事事件から遠のく離島の弁護士も増えるのでは」と浦崎さんは言う。そして何より「壱岐での日常の活動に支障が出るのでは」と心配する。
国民の司法参加により増える弁護士の負担。ともすれば島民が法サービスを受ける機会が損なわれる恐れもはらんでいる。