さいたま市南区の元厚生事務次官夫妻殺人事件で、浦和署の捜査本部は捜査員を150人態勢に増強し、警視庁とも情報交換しながら、犯人像の絞り込みを進めている。周辺住民らからは、不審な人物や車両について数十件の情報が寄せられているが、「犯人に直結するような有力な情報は得られていない」(捜査幹部)といい、引き続き、情報の収集に努める。
◆不審車
山口剛彦さん(66)、美知子さん(61)夫妻が殺害されたのは「17日夜の比較的早い時間」(捜査本部)。さいたま市南区別所の現場周辺では、この時間の前後に見たという不審車を巡る目撃情報が錯綜(さくそう)している。
近所の男性(77)は17日午後5時頃、現場から西へ40メートルほど離れた路上に停車した白っぽい小型のワゴンを見た。山口さん宅から続く犯人のものとみられる足跡が途切れた辺りで道幅は約4メートル。男性は「日ごろは見かけない車なので変だと感じた」。
しかし、午後6時〜6時半頃、近くを通りかかった複数の住民が「車は見ていない」と証言。
これとほぼ同じ場所では、午後4時頃にも「誰も乗っていない黒い乗用車が止まっていた」との情報もある。証言したのは、この時間帯に週3〜4日、同じ道を通って帰宅している近くの男子高校生(17)で、やはり「見かけない車だった」。
ただ、この道沿いのマンションの住民は「周辺に駐車スペースが少ないためか、近所の家を訪問する人などが短時間、路上駐車する人は珍しくない」という。「白いワゴン」も「黒い乗用車」も今のところ犯行との結びつきは不明瞭(めいりょう)だ。
◆不審者
山口さん宅の近所の男性(60)宅には17日午後3時半頃、見知らぬ男が訪ねてきたという。チャイムが鳴ったため3階の窓から外をのぞくと、男は玄関前に手ぶらで立っていた。男はきょろきょろ周囲を見回し、約5分後に立ち去った。不審な男は小柄で40歳代くらい。黒っぽい服装でカーディガンを着ていた。男性は「かなり挙動不審だった。あの男は何だったろうか」と不安を募らせる。
山口さん宅の西隣のアパートに住む男性会社員(30)は約1か月前、午後8時頃に徒歩で帰宅途中、自転車の男に追いかけられたという。男はすれ違いざまにUターンして会社員のあとをつけ、自宅アパートに着くと、「家賃はいくらですか」と尋ねてきた。会社員が無視すると、男は立ち去った。男は30歳代後半くらい。
会社員は「今回の事件で思い出した。男は自転車を倒し、かなり動揺していた」と話す。
◆遺留品
凶器とみられる刃物や血のついた衣服など、犯行に直結する遺留品も現時点では見つかっていない。
山口さん宅から南東に約100メートル離れた場所では、青い野球帽が見つかった。この家に住む女性(73)によると、帽子は18日午前7時頃、塀の上にあった。前面に白いマークの入った見覚えのない品で、間もなく警察が押収した。
東京・中野区で起きた2件目の襲撃事件の男は野球帽をかぶっていたとされるが、それより前に発見されたこともあり、県警幹部は事件との関連について否定的だ。
■防犯カメラ映像解析も
捜査本部は不審な人物や車両について、周辺住民などから寄せられた数十件の情報を1件ずつ精査し、有力な情報を洗い出す一方、周辺の駅などの防犯カメラの映像の解析も進めている。捜査幹部は「確かにいっぱい情報はあるが、犯人に結びつくかといえば何とも言えない。正しい情報か一つずつ詰めている」と話している。
■県警本部長が捜査本部激励
松本治男県警本部長が21日午後3時過ぎ、捜査本部のある浦和署に捜査員らを激励に訪れた。黒いスーツ姿の松本本部長は約15分間、同署に滞在し、捜査員約150人を励ました。
松本本部長は同署前で報道陣の取材に応じ、「さいたま市と東京都中野区の事件については、同一犯による犯行の可能性もあり、国民の大勢の皆様に多大な不安と脅威を与えている」とした上で、「一刻も早く凶悪な犯人を検挙したい」などと語った。
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/saitama/news/20081121-OYT8T00870.htm