「クラウドコンピューティング」という言葉が今、IT業界で最もホットなキーワードとなっている。コンピューターのハード・ソフトベンダーやネットサービス企業の大手が、ここにきてこぞって市場参入。合従連衡による勢力争いもヒートアップしている。
合言葉は“クラウドコンピューティング”「クラウドコンピューティングといえばサン、と言われるようにしたい」。9月18日に戦略発表の記者会見を行ったサン・マイクロシステムズ日本法人のライオネル・リム社長が会見冒頭でこう語り、そのための製品群や営業体制の強化に注力することを強調した。
ここへきて、サンを始め有力IT企業がこぞってクラウドコンピューティングと呼ばれる新たな事業領域に力を入れ始めている。
クラウドコンピューティングとは、2006年頃から台頭してきた、コンピューターリソースの活用形態に関する新しいコンセプトである。インターネットで結ばれた世界中のデータセンターをあたかも1つのコンピューターであるかのように捉え、その中に用意されたソフトウエアや情報サービスを、ユーザーが必要なときに必要なだけ、ブラウザーなどを通じて使えるようにする、というのがその骨子だ。
「クラウド」とは、インターネットの中に無数に広がるコンピューターリソースを、湧き立つ「雲(クラウド)」になぞらえた表現で、Googleのエリック・シュミットCEOの講演での発言などをきっかけに、注目されるようになってきた。
コンピューターの利用形態における変遷でいうと、「大型汎用コンピューター(メインフレーム)全盛期の集中管理」「オープンなクライアントサーバーシステムによる分散処理」「インターネットに代表されるネットワーク中心の新しい集中管理」に続いて、クラウドコンピューティングは“第4のパラダイム”と位置づけられている。
世界のIT業界地図が激変!?この第4のパラダイムに向けて主導権を獲得しようと、有力IT企業の間で合従連衡の動きが活発化している。
その発端となったのは、グーグルとIBMが昨年10月に発表した大学向けのプロジェクトだ。両社は共同で米国の6大学の研究プロジェクトに参加。クラウドコンピューティングに必要な技術開発を産学協同で行う計画を作った。
また、SaaS(サービスとしてのソフトウエア)の先駆者としてオンデマンドCRM(顧客情報管理)で急成長を遂げているセールスフォース・ドットコムも、グーグルとの協業によってクラウドコンピューティングの推進に注力している。
一方、そうしたグーグルを軸とした動きに対抗するかのように、今年7月にはヒューレット・パッカード(HP)、インテル、ヤフーの3社が、主に研究や教育利用に向けたクラウドコンピューティング環境を共同で開設。このプロジェクトには、シンガポール政府、米国やドイツの大学なども参加している。
さらに最近では、グーグルと並んでこの分野で先行しているといわれるアマゾン・ドットコムとオラクルが提携。マイクロソフトもクラウドコンピューティング基盤を着々と整備しており、10月末にもその全容を明らかにすると見られている。
クラウドコンピューティングを提供するIT企業にとっては、資金力、技術力、サービス力など、これまで以上に総合力が問われることになる。パラダイムの変化とともにこれまで、様々な合従連衡が行われてきたIT業界だが、これから始まるクラウドコンピューティング時代では、かつてないほどダイナミックな動きが巻き起こりそうだ。(フリージャーナリスト・松岡功/2008年10月24日発売「YOMIURI PC」2008年12月号から)