東京都渋谷区の住宅街で12日午後零時半頃、会社経営・横山信一さん(60)の自宅兼事務所で爆発が起こり出火した。この火事で、横山さん宅と向かいの民家が全焼。横山さんの母の喜代子さん(88)と妻の洋子さん(55)の遺体が見つかった。横山さんが映画撮影用に扱っていた火薬が引火したとみられる。偶然、現場近くの事務所にいたイラン人タレントのランディ・マッスルさん(40)が、横山さんを救助。だが、「2人、救えなかった」と沈痛な表情だった。
住宅や商店 密集真ん中 大爆発は住宅や商店が密集する都会の真ん中で起きた。午後零時半頃、「バーン!」という爆音とともに「バババババン」の連続音も。向かいのマンションの窓ガラスは割れ、近くにいた男性は「地響きを感じた」という。
爆発音は数分間続き、すぐに炎が発生。調べによると、3階建ての横山さん宅111平方メートルと隣の民家110平方メートルが全焼した。横山さんは全身やけどの重傷。長男(29)と次男(23)は3階にいたが、2階のベランダから飛び降り軽傷。外出中の長女は無事だったが、横山さんの母が1階風呂場、妻が2階リビングで遺体で発見された。
横山さん方は「ブロンコ」という会社名で、映画撮影で使うピストル用の火薬を扱っていた。1階が事務所兼作業場となっており、横山さんは救急搬送中に「1階の作業場で火薬の調合中に爆発した」と説明。警視庁原宿署では、調合ミスから爆発につながった可能性があるとみている。
1階で作業していた横山さんを救助したのは、バラエティー番組などの出演で知られるイラン人タレントのランディ・マッスルさん。爆発が起きた時、番組の打ち合わせで火災現場近くの所属事務所にいたという。
大音量に驚いたマッスルさんが様子を見に行くと、目の前の壁が吹っ飛び、中にはベニヤ板でパタパタ消火活動する男性の姿が見えたという。「出てください」との呼びかけにも動じなかったため、マッスルさんは中に入り、抱えて運び出した。横山さんの顔と白いセーターは血まみれで「私は大丈夫。妻が中にいる、家族がいるんだ」と叫びながら炎に飛び込もうとしていたという。
横山さんを必死で止め、自ら家の中に入ろうとしたマッスルさんだが、あまりの炎の大きさに断念。「(亡くなった)2人も助けたかった。残念です。でも、あのまま横山さんが入っていたら、みんな助からなかった」と唇をかむ。
火薬製造の 許可受けず 2人の命を奪った今回の大惨事。近くの雑貨店の女性従業員は「ただの火事じゃないから怖い。火薬は許可制じゃないの?」とおびえる。都によると、火薬の製造には火薬取締法に基づき、都知事の許可が必要だが、横山さんは受けていなかったという。向かいのマンションの管理人を務める男性は「あれだけの火事になるくらいの火薬を扱っているのはおかしい」と怒っていた。原宿署では同法違反の疑いもあるとみている。
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