2008年11月10日(月) 21時23分
露原潜事故 クルスクの悪夢再び(産経新聞)
【モスクワ=遠藤良介】ロシア海軍で頻発する原子力潜水艦の事故は、軍事力誇示に突き進むこの国の軍に、兵員や兵器の質という根本的な内実が伴っていない実態を改めて浮き彫りにしている。専門家らは、この種の事故がいつ放射能漏れといった深刻な事態につながってもおかしくないと警告している。
乗員40人以上が死傷した今回の事故は、プーチン前政権発足直後の2000年8月、北方艦隊の原潜クルスクが沈没し、乗員118人全員が死亡した大惨事を想起させる。プーチン前政権はこの事故以来、「大国復活」を掲げ、ソ連崩壊後の資金不足で凋落した軍の再建を急いできた。しかし、軍事費が00年から6倍以上に増えたにもかかわらず、軍はソ連崩壊後の財政難で受けたダメージから脱していない。
今回の事故は、試験航行中に消火装置が誤作動したことが原因との見方が強まっている。かつて太平洋艦隊による放射性廃棄物の不法投棄を告発した同艦隊機関紙元記者のパスコ氏は「この事故は乗員の訓練不足と潜水艦建造における技術・技術者が失われたことを示している」と説明。軍事費増大にもかかわらず、「新原潜建造に必要なカネは海軍の現場まで行き渡っていない」と語る。
近年、建造されている「最新式」の艦船も多くはソ連時代に設計されたもので、軍事予算の少なからぬ部分は汚職体質の軍・官僚機構の中で使途不明となる。露軍兵士の給与が国内の平均を大きく下回るなど軍での待遇は劣悪で、仕事の質や責任感にも疑問符がつく。
こうした事情を抱えながら、ロシアは昨年夏、92年に中止された戦略爆撃機による長距離飛行訓練を再開。海軍も世界的な規模での遠洋航海に乗りだし、今月にはカリブ海で南米ベネズエラとの合同演習も予定されている。特に、ロシアは中国や米国を牽制(けんせい)する狙いから「東の出口」である太平洋での軍事プレゼンス増強を重視していた。老朽原潜の解体資金を諸外国の支援に仰ぎながら、一方で新原潜の建造を急いでいる。
多くの環境専門家は海軍基地などでの放射性廃棄物の保管状況にも懸念を示しており、パスコ氏は「日本海のような閉鎖的な海域で大事故が起きた場合の被害は甚大になる」と指摘。ロシアの原潜解体支援に200億円以上も投じてきた日本は、特にロシア海軍の動向を注視する必要がある。
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