今年初めごろから、日本企業の業績にも暗い影を落とし始めた米国のサブプライムローン問題。その余波は、来春就職予定の学生たちが「内定」を取り消されるという形で表れていた。
名古屋市内の大学院に通う女子学生(23)は6月4日、内定をもらった1部上場の住宅建設会社の採用担当者から、喫茶店に呼び出された。
「銀行の融資を切られてしまった」「会社に入っても仕事はない」——。担当者は、売り上げ悪化を示すグラフを見せて、内定の辞退を求めてきた。
社長から直接、内定通知を受け取ったのは3か月も前。「経営が厳しいのならなぜ内定を出したのか」。抗議をしても担当者は頭を下げるだけで、再び連絡をするという約束さえ守らなかった。
それから設計関係の仕事を探したが、希望に沿う就職先などない。今は建築士の資格を取るため専門学校に通うしかないと思い始めた。その学費は年70万〜100万円。両親にまた負担をかけることになる。
「専門学校を卒業する2年後に、今の状況が変わっているのか」。女子学生の気持ちは揺らいでいる。
この住宅建設会社から内定辞退を求められた学生は、女子学生も含め約10人に上る。同社の事業の柱は高級住宅の販売で、主な顧客は外資系金融機関の社員などの富裕層。それが米国のサブプライムローン問題をきっかけに買い控えを始めたため業績不振に陥り、8月末、民事再生法の適用を申請して破綻(はたん)した。同社は「こうなったのは経営判断のミス」と話している。
首都圏の私大でも内定取り消しが続出している。
明治大では8月から10月にかけ、不動産関連や情報通信など4社から4人が内定を取り消された。
青山学院大では、1人が内定先の大和生命が経営破綻し、もう1人は不動産会社で総務系の職種を希望していたのに、10月末、会社から「全員販売に回します」と告げられ、内定を辞退せざるを得なくなった。3人から内定取り消しを相談された千葉商科大の担当者は「もっと多くの学生が取り消されているかも知れない」と不安そうに話した。
早稲田大4年の男子学生(22)も9月17日、自宅近くの喫茶店で、内定先の人事部長から「会社はあと半年持つかどうか。ほかを探してくれないか」と頭を下げられた。
創業約10年の未上場のコンピューターシステム開発会社。「大手より実務能力が身につきそう」と選んだつもりだった。
留年を決意して今の3年生と一緒に就職活動を再開したが、あの日、別れ際に「子供さんは?」と尋ねた時、「いるよ」と言った人事部長の寂しげな表情が忘れられないという。