2008年11月08日(土) 11時02分
【法廷から】夫婦で薬物使用 4歳児の母親をしかった“人情”裁判官(産経新聞)
「早く戻って、子どもに会ってあげてください」
判決を言い渡した後、裁判官はそう付け加えた。4歳の娘の母親である被告(37)は、むせび泣きながら、短く「はい」とだけ答え、裁判官に頭を下げた。
自宅で覚醒(かくせい)剤を使用したとして、覚せい剤取締法違反の罪に問われた被告の公判が7日、東京地裁で開かれた。
紺色の長袖Tシャツにジーンズという格好で法廷に現れた被告は、終始うつむいたまま、両手を固く握りしめていた。肩まで伸びた髪は、犯行発覚以降、染めていないようで、頭頂部分だけ黒かった。
検察側の冒頭陳述などによると、夫と4歳になる娘の3人家族である被告は5月31日、東京都大田区内の自宅マンションで、注射器を用い、覚醒剤を使用したという。
ここまではよくある薬物裁判の話だが、この被告の場合、実は夫も一緒に検挙されている。
被告によると、先に覚醒剤に手を出したのは、夫だった。夫は4年ほど前から、タンスの引き出しに覚醒剤を隠し、度々使用していたという。それを夫に内緒で使用していた被告は、犯行当日が夫の給料日であったため、「夫が覚醒剤を買ったのではないか」と思い、引き出しを開けてみたところ、覚醒剤2袋を発見。そのうち1袋を使用したのだった。
被告人質問中、被告はずっと泣き続けていた。特に、話が娘の話に及ぶと、あふれ出る涙をとめることができない様子だった。
弁護人「最初に(覚醒剤を)使ったきっかけは?」
被告「タンスの引き出しに、主人が内緒で持っていたものを、たまたま見つけまして…」
弁護人「なぜ、(夫を)やめさせようとしなかったの?」
被告「興味の方が先立って…。少し口に入れて、使ってしまいました」
弁護人「その後、また使い始めたきっかけは?」
被告「また見つけたときに、注射器と一緒に置かれていたので、注射器に興味を持ってしまいました」
弁護人「ご主人に話したことは?」
被告「口に入れたことを、けんかのときに言ったような気がします」
弁護人「子どもは何歳?」
被告「4歳です」
弁護人「実刑になったら、(子どもは)どうなります?」
被告「母親を必要としている(年齢な)ので、寂しく、つらい思いをさせることになると思います」
その後続いた裁判官の質問も、子どものことに集中した。
裁判官「お子さんには、(両親に会えないことを)何と言ってあるんですか?」
被告「仕事をしていると思ってます。遠いところに行っていると…」
裁判官「お子さん、かわいそうですよね。あなた、夫がやってたら、止めなきゃいけない立場でしょ? 何やってるんですか!」
それまで冷静に話を聞いていた裁判官が、突然、語気を強めた。幼い娘がいながら、夫婦で覚醒剤の使用を続けていたことが、到底理解できないといった表情だった。
裁判官「保釈されて、お子さんに会えたでしょ? お子さん、喜んだでしょ?」
被告「泣いて喜んでくれました」
裁判官「母親が必要だってこと、分かるでしょ? お母さんと触れ合えない日があると、子どもにどういう影響があるか、分かるでしょ?」
被告「はい…」
被告には、即日判決が下され、懲役1年6カ月、執行猶予3年が言い渡された。判決を言い渡した後、裁判官は被告を諭すように語り始めた。
「執行猶予にはなりましたが、被告の罪は決して軽くない。被告人には、猛省してもらいたい。しかし、親子を引き離すことは、あまりにも酷。そうすべきではないと思いました」
裁判官は、被告を厳しくしかりつつも、両親が覚醒剤を使用していたために、長期間、祖母宅に預けられていた子どもに対し、深い同情を示した。裁判官の情のこもった言葉に、被告は肩を大きく震わせながら、何度もうなずいた。
今後、この夫婦は覚醒剤から完全に足を洗うことができるだろうか。どちらかが再び使い始めたら、もう一方もそれに続いてしまうのではないかという思いが頭をよぎった。
両親の愚かな罪のために、4歳の娘が再び悲しむようなことがあってはならない。(徐暎喜)
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