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2008年11月05日(水) 17時18分

米大統領選のオバマ氏勝利:識者はこうみるロイター

 [ワシントン 5日 ロイター] 米メディアによると、4日投票が行われた2008年の米大統領選挙は、民主党候補のオバマ上院議員(47)が共和党候補のマケイン上院議員(72)に勝利し、米国初の黒人大統領が誕生することになった。
 次期大統領は今後4年間、経済危機やイラク問題、医療制度改革などのさまざまな課題と取り組むことになる。オバマ氏の勝利に関する識者の見方は以下の通り。
●アジアにとって朗報、地政学リスク低下に寄与=韓国現代証券
<現代証券(ソウル)のエコノミスト、LEE SANG-JAE氏>
 オバマ氏の勝利は、輸出に依存しているアジアにとって朗報だ。世界経済回復への期待は強い。
 新しい米政権は、世界的な地政学リスクの低下に寄与し、原油価格をさらに安定させるとみられる。クリントン政権期のように米貿易赤字が縮小し、世界経済の不均衡に対する懸念を後退させるだろう。
●オバマの公的支援、金融機関の自助努力までのつなぎの役割
<住友商事総合研究所チーフエコノミスト 奥田壮一氏>
 これまでの選挙公約で、公的資金を、金融部門だけでなく自動車産業にもつぎ込むとか、「大きな政府」という民主党の伝統的ポリシーにのっとった形で支援策を打ち出していたので、オバマ氏が選ばれたことへの安心感はあると思う。ただ、これをもって、すべてが良い方向に動くというものでもない。
 実際に政権移譲が行われ新内閣が決まるまでの、11月後半から1月あたりまでの空白期間に、不測の事態があった場合、政策の発動が機動的にできるのか予断を許さない状況だ。
 彼がすべき政策としては、公的支援により金融市場の安定化をもたらすこと。それで、時間を稼いだうえで、米金融機関が自助努力で自己資本を拡充するという動きが出てこないといけない。彼の役割は、それまでのつなぎの役割しかなくて、公的支援があれば、金融市場がすべて安定化するというわけではない。米金融機関が自助努力で自己資本を充実させ、安定に移行できるタイミングが次の焦点となる。今後、それができる経済・金融環境になるかどうか注目される。
 絶えず公的支援に頼るという状況が一番最悪の展開。支援を絶えず打ち出し続けることになれば、財政も疲弊、米連邦準備理事会(FRB)の資産も悪化し、ドル安圧力が強まる。そういう意味で、公的支援の時間は短いほうが望ましい。
 11月中旬の金融サミットは危機感を共有した上で、協調体制で困難な状況に取り組む姿勢を打ち出しで、市場に安心感を与えるということになるだろう。その他は、国際通貨基金(IMF)の財源が無くなってきているので、追加拠出がテーマになりそうだ。その際に、先進国と、中東などを含めた新興国が一枚岩となって対応できるのかどうか試されそうだ。
●オバマ氏の勝利受けた米株市場の動向に注目
<プルデンシャル・セキュリティーズ・インベストメント・トラスト(台湾)のファンドマネジャー、エディー・チェン氏>
 株式市場は既に米大統領選の結果をある程度織り込んでおり、従って、向こう数日については上昇幅はかなり小さくなるだろう。ただ、われわれが現在、注目している最も重要な反応は依然として、オバマ氏の大統領選勝利を受けた米株式市場の動向だ。
●保護主義色強めることを懸念=韓国大信経済研究所
<大信経済研究所(ソウル)のチーフエコノミスト、KIM YOON-GEE氏>
 われわれが懸念するのは、米民主党が政策上、米国経済を守ることを優先させることだ。そうなれば保護主義が世界に広がる。
 国際協調が非常に重要な現状を踏まえると、米国がかつてのような強い保護主義を打ち出すとは思わない。
 オバマ政権となった米国は再構築を加速すると予想され、金融市場は予想以上に早く安定するだろう。
●エネルギー取引に影響ない、政策把握に数週間必要
<リッターブッシュの社長、ジム・リッターブッシュ氏>
 エネルギー取引に関しては、当初の影響はみられない。原油相場は昨日の時点ですでに大きく上昇していた。われわれがオバマ氏の政策の詳細を把握するのに数日から数週間を要する可能性がある。
 概して、長期的観点から米経済にとって好ましい出来事だ。
●米国は第2次経済対策策定へ
<ソシエテ・ジェネラル(香港)のアジア太平洋首席エコノミスト、グレン・B・マクガイアー氏>
 米議会は3000億—5000億ドル規模の第2次経済対策を策定する可能性が高い。対策ではインフラ整備や優遇税制などで直接的に経済に資金を投入することになるだろう。オバマ新大統領は、1兆ドル以上の債務など多大な課題に直面するが、最終的には問題の一部は落ち着き、米国の消費者信頼感を押し上げるだろう。
●短期的に日米経済にプラス、株高・ドル高・円安要因
<野村証券 チーフエコノミスト 木内登英氏>
 新政権・新議会の下では民主党主導で積極的な金融・景気対策が打ち出されることが期待できる状況となった。
 オバマ氏が掲げる所得減税と公共投資等が実行された場合に、米国実質GDPは0.4%程度押し上げられ、輸出を通じて日本経済を0.2%押し上げる計算となる。こうした政策を金融市場が前向きに評価した場合には、景気刺激効果がさらに増幅することになるだろう。
 今後米国では景気の急速な悪化を示す経済指標が相次ぐことが見込まれ、その結果、来年1月の大統領就任以降に発表される景気対策は、さらにスケールアップされる可能性が高い。2000億ドル─3000億ドル規模にまで増額される可能性があり、この場合には米国のみならず日本経済へのプラス効果もさらに大きくなる。
 このように、オバマ政権成立は、短期的な日米経済にはプラスであり、金融市場では日・米株高要因、ドル高・円安要因となるだろう。しかし中長期的に見れば、日本にとっても懸念材料が無いわけではない。第1は、米国での貿易赤字急拡大の影響である。米国の財政赤字拡大のつけを、長期金利上昇や円高ドル安を通じて日本が払わされる可能性がある。第2は、米国が民主党主導の議会、政府になることで、貿易面ではいずれ保護主義的傾向が強まる可能性がある。クリントン政権第1期のように激しい日米貿易摩擦が再燃する可能性は低いだろうが、共和党政権と比べれば摩擦が生じやすいことは確か。保護主義的な貿易政策が為替政策と結びつけば、為替市場では中期的にはドル安・円高圧力が強まる可能性もある。
 このように、オバマ政権成立が、日本経済や日本の金融市場に与える影響は、短期と中期で様相を異にする可能性がある点には注意しておきたい。
●米国の信用力回復へ期待、対日政策を注視
<新生証券 債券調査部 シニアアナリスト 松本 康宏氏>
 オバマ民主党候補の勝利は予想通りの結果だった。オバマ政権は追加の景気対策を早期に打ち出す方向にあり、労働者・低中所得者層への減税という政策が落ち込んでいる消費を刺激して景気浮揚に結びつけられるかがポイントになる。「変革」をスローガンに強いリーダーシップを発揮することになれば、米国の信用力は回復へ向かうことが期待され、クレジット市場は信用不安の沈静化からタイト化する可能性が高い。
 ただ、オバマ氏の外交手腕は未知数だけに注意したい。経済、環境、防衛面など対日政策は見直され、共和党政権下より厳しい要求が出されることも考えられる。過去の経験則では、民主党の政権下で円高が進行する局面が増えるとの印象がある。円高から株が不安定になると、日本のクレジット市場のタイト化が抑制され、神経質な動きになることも想定できる。
●経済再活性化にいかに取り組むかは不明
<ナショナル・ オーストラリア銀行(NAB)の市場経済学チーフ、ロブ・ヘンダーソン氏>
 市場にとってネガティブな材料にはなりえない。変革への信任を問う投票であり、米国は自己改革が可能であるとの自信を吹き込むものだ。
 誰が大統領になるにしても、現在の諸問題を考慮すれば、好ましい時期とは言えない。オバマ氏は大統領就任後、第1日目から経済の再活性化に向けた圧力にさらされるだろう。同時に、巨額の財政赤字に対処する必要もある。
 オバマ氏がこうした問題にいかに取り組むかは現時点で不明だ。早期に判明する手がかりは、彼が誰を新政権の重要なポスト任命するか──とりわけ、財務長官に誰をもってくるかだろう。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081105-00000468-reu-int