記事登録
2008年11月03日(月) 08時01分

敷金0、礼金0 ゼロゼロ物件、意外な明暗 家賃滞納で即違約金、条件確認して産経新聞

 賃貸住宅で敷金ゼロ、礼金ゼロの「ゼロゼロ物件」が若者などに人気の半面、家賃滞納や退出時などの対応に苦情も増えており、裁判にも発展した。貸す側にすれば万一の際の担保がないわけで、厳しくせざるを得ない事情がある。借りる側は、入居時の手軽さだけに目を奪われず、家賃滞納時などの厳しい条件についても、契約時にしっかり認識しておきたい。(森本昌彦)

 会社員の男性(29)は、初期費用の安さに魅力を感じて東京都府中市内の家賃4万6000円のゼロゼロ物件に昨年1月に入居した。しかし収入が安定せず、翌月になって不動産会社に家賃が遅れることを電話連絡すると、「施設再利用料」などの名目で約2万円を支払わされた。支払い遅れが14回続いたため、施設再利用料や違約金などの支払いは計26万9150円に上った。この間、連絡なしに鍵を交換されたり、就寝中に不動産会社従業員が室内に入ってきて家賃を督促されたりした。

 引っ越しを考えたが費用がなく、今年6月にようやく寮がある仕事が見つかって転居した。

 男性は先月、慰謝料などの支払いを求め、この不動産会社(本社・東京都新宿区)を提訴した。弁護団によると、同社の契約は「施設付鍵利用契約」で、賃貸権はなく居住権もない。このため、少しでも家賃が遅れると違約金が発生したり、鍵を交換して入室が禁止されたりした。

 こうした契約について同社は「係争中で取材には応じられない」とするが、弁護団の弁護士は「家賃を2、3日滞納しただけでは追い出すことはできないのに、入居者が法に無知なことにつけ込んでいる」と指摘する。

                   ◇

 一方、不動産会社や大家にとって家賃の滞納は死活問題。ゼロゼロ物件を扱う別の不動産業者は「滞納は1カ月分だけでも影響が大きい。放っておくと3カ月、4カ月と重なる。督促や回収には人手も必要で負担がかかる」と話す。

 さらに「賃貸物件の大家には固定資産税がかかるし、物件を建築したローンを抱える人もいる。これらは家賃を滞納されても払わなければならず、下手すると破産しかねない。借り手保護の意識が強まっているが、大家の立場も理解してほしい」と打ち明ける。

 大家や地主の相談に乗っているNPO法人「日本地主家主協会」は「滞納はゼロゼロ物件でなくても常にある問題」としたうえでこう説明する。「それぞれ事情は異なるが、滞納は大家にとって一番の心配事項だ。自宅敷地内にアパートを建てるなど、零細的な立場の大家が多い。家賃を生活資金に考えている人もおり、滞納は痛手になる」

 ただ、ゼロゼロ物件は扱わない不動産業者は「入居の間口を広げる余り、滞納が予想される経済状態の人まで安易に入居させれば、滞納が増えるのは当たり前だ」と批判する。

                   ◇

 7月に実施された「ゼロゼロ物件被害110番」には65件の相談があった。国民生活センターにも「退去時に修繕費30万円を請求された」「入居時に保証金35万円を払わされた」などの苦情が目立っており、同センターは「別名目の支払いが契約書に明記された場合があるので、よく読んでから契約を」と呼びかける。

 NPO法人「日本住宅性能検査協会」の大谷昭二理事長は「最後までゼロということはあり得ず、落とし穴が必ずあると見るべきだ」という。そして「高校などで物件を借りるときの注意点などを説明する消費者教育をしっかりと実践して、消費者としての意識を覚醒(かくせい)する必要がある」と話している。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081103-00000055-san-soci