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2008年11月01日(土) 01時30分

航空幕僚長 政府見解逸脱論文、麻生政権にさらなる逆風毎日新聞

 過去の戦争をめぐり政府見解を逸脱する論文を書いた田母神(たもがみ)俊雄・航空幕僚長の更迭により、世界的金融危機や景気悪化への対応に追われる麻生政権はさらなる逆風にさらされることになりそうだ。インド洋での給油活動を延長する新テロ対策特別措置法改正案の国会審議に影響するだけでなく、政権の歴史認識を問われる事態にもなりかねない。12月に予定される日中韓首脳会談のホスト役である麻生太郎首相にとって冷や水を浴びせられた形だ。

 田母神空幕長の論文内容が浜田靖一防衛相から首相官邸に伝えられたのは31日午後6時ごろ。秘書官から報告を受けた首相は、記者団の質問に「全然知らない。個人的に出したとしても立場が立場だから適切じゃない」と苦笑交じりに答え、平静を装った。

 しかし、政府高官は「確信犯としか思えない。政府方針と反する点は問題だ」と困惑を隠さなかった。

 首相はもともと「タカ派」で対中韓強硬論者とされてきた。しかし、外相時代からは靖国神社への参拝を自粛するなど、アジア外交に対しては現実路線に努めてきた。10月24日に北京で中韓両国首脳と会談した際も歴史問題に踏み込まず、信頼関係の構築を優先しただけに、現職自衛隊幹部の「造反」に官邸には失望感が広がった。

 民主党は新テロ特措法改正案を審議している参院外交防衛委員会で、浜田氏の監督責任などを問う集中審議を要求する構えだ。田母神氏の参考人招致も検討しており、改正案の採決日程に影響が及ぶのは確実とみられる。社民党の福島瑞穂党首は31日夜、毎日新聞の取材に「更迭は当然。歴史認識をねじ曲げる発言は許せない」と語った。【中田卓二】

 ◇政府見解に真っ向対峙、文民統制崩しかねない論文

 田母神(たもがみ)俊雄・航空幕僚長が政府見解と真っ向から対峙(たいじ)する論文を書いて更迭されたことは、政治が自衛隊を統治する文民統制(シビリアンコントロール)を根底から崩しかねない。「ねじれ国会」による意思決定の停滞が文民統制の低下を招いているとしたら事態は深刻だ。国民全体で政治と自衛隊との関係のあり方を真剣に見直す必要性に迫られている。

 「政治が何もしてないかのように言うなら旧陸軍将校によるクーデター『2・26事件』と何も変わらない」

 元防衛相の石破茂農相は田母神氏更迭を受け、歴代内閣が慎重に扱ってきた事柄で、制服組が悪びれることなく持論を展開することを危惧(きぐ)した。

 ただ、21世紀に入り、自衛隊は抑止力のため「存在するだけの組織」から「機能する組織」への大きな変容期を迎えている。航空自衛隊トップの「暴走」を招いたのは、変容に政治の統治能力がついていっていないからだとの指摘もある。

 田母神氏は歯に衣(きぬ)着せぬ言動で物議を醸してきた人物。空自出身の森本敏拓殖大教授は「若いころから思い切ってものを言った者が組織で認められ、幕僚長まで上り詰めたのは発言が正論と受け止められてきたからだろう」と指摘。論文が組織全体の代弁者としての意図があったとの認識を示した。

 確かに、今回の論文に盛り込まれた現行憲法解釈で禁じている集団的自衛権の行使や武器使用の基準をめぐっては、大多数の自衛官が「政治の場での議論」を求めてきた。インド洋、イラクなど海外での自衛隊の活動が常態化する一方、現場で憲法解釈のあいまいさが浮き彫りになり、解釈変更を求める声が高まっていたのも事実だ。

 政治が統治能力を発揮するには制服組に目を光らせるのはもちろん、安全保障論議と真摯(しんし)に向き合う必要がある。そうでないならば、制服組による政治への問題提起が続く可能性を否定できないだろう。【古本陽荘】

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