米国発の金融危機に、人々の暮らしが翻弄(ほんろう)されている。麻生首相が「100年に1度の暴風雨」と称した株価と為替の乱高下。その波紋は日本のどこに、どのように広がっているのか。現状を報告する。
食費削り 娘の結婚資金も消えたたたみ1畳分もあるアルミ板から、手のひらほどの扇形の部品が次々に焼き切られていく。4700社に上る町工場が集まる東京・大田区。その一つ、金属加工会社「英寿製作所」の社長、三上和寿さん(46)は、最新のレーザー加工機で切り出した部品を見ながら、「今日の仕事は、これ1件しかなかった」と悲しそうに語った。
三上さんは妻と2人の娘、父親で同社会長の喜久治さん(72)と母親の6人家族。妻は派遣の仕事に出ているため、工場は三上さんと喜久治さんで切り盛りしている。
月75万円のレーザー加工機のリース代、自宅兼工場のローン……。最低でも売り上げが月250万円ないと、工場も家族の生活も維持できない。それが今年の夏から急に減り始め、米大手証券リーマン・ブラザーズが破綻(はたん)した9月は、前年同期比43万円減の196万円にまで落ち込んだ。
預金を取り崩して運転資金に回し、20歳と23歳の娘の嫁入り資金も消えた。家族の食費を削り、喜久治さんの会長としての報酬月10万円もローンの返済に充てている。
麻生首相は30日、中小企業の資金繰り支援などの経済対策を公表した。しかし、日本の「モノ作り」の末端で機械の部品を製造する三上さんにとって、これで売り上げが戻るのか先行きは見えない。「個人の努力の限界を超えている」。三上さんはそう言って頭を抱えた。
愛知県岡崎市。金属加工会社「加古製作所」社長の加古立夫(たつお)さん(60)も「来週の注文は1件しかない」と話し始めた。
同社は、トヨタ自動車など自動車メーカーの孫請けで、加古さんと長男の立浩(たつひろ)さん(33)、男性従業員の3人が車の製造ラインの部品を作っている。原材料代が高騰しても、コスト削減と品質の維持を両立させ、「世界に誇る日本車は俺たちが支えている」と胸を張って働いてきた。
そこに9月以降、金融危機による北米の自動車市場の冷え込みが直撃した。10月の売り上げは前年同期比25%減の220万円。採算ラインぎりぎりで、40万円かかる工場の屋根の修繕をあきらめた。11月も第2週からの注文がない。
「この先も注文がこないかと思うと夜も眠れない」。加古さんは「とにかく仕事が欲しい」と訴えた。
大阪市平野区の金属加工会社「村岡製作所」の社長、村岡盛満さん(60)は10月半ば、夜8時ごろに外回りから事務所に帰ると、見知らぬ男性に呼び止められた。「得意先からの注文が途絶えてしまって……。仕事をわけてもらえませんか」。大阪府内の同業者だった。
村岡さんの工場も9月は売上高が半減し、10月も4割減った。同業者に注文を回す余裕はない。「9月以降、同じような依頼が7、8件続いている。こんなことはバブル崩壊の時も経験しなかった」。その言葉に悲壮感が漂っていた。
http://www.yomiuri.co.jp/national/kishimu/kishimu081101_01.htm