今年に入り、食品、ガソリンを始め、値上げのニュースが続いている。一方のパソコン新製品は、機能は向上しながら価格は上昇せずという状況だったが、どうやら変化が起ころうとしている。
NECが秋に発売する製品の一部値上げを決め、他のメーカーも厳しい状況に苦慮している。パソコンの価格は今後どうなっていくのか。
値上げといってもパソコンの場合は、食品やガソリンとは状況が異なる。スーパーの棚に並ぶ同じ“小麦粉”の価格が、ある日を境に変わる、というものではない。
今回値上げを表明しているNECの場合、「秋に発売する一部製品の価格が上がる。ただし、値上げといっても従来製品に比べて機能向上を実現しているので、他の物品のように『パソコン価格がこれだけ上昇』という単純な表現はできない」という。具体的には、一部機種の価格が5000〜3万円程度値上がりするが、その要因について、「この部材価格がこれだけ上昇したから」と、一口では説明できないのだという。
2002年、パソコンの値上がりが大きな話題となったことがある。このときの値上げ要因は、CPU、LCD(液晶ディスプレー)、メモリーといった主要部材の価格が軒並み上昇したことだった。
パソコンは、その多くの部材の規格が世界的に統一されており、CPU、LCD、メモリーといった部材に関しては世界中のパソコンメーカーが同じものを使用している。世界規模でビジネスを行うデル、ヒューレット・パッカードといったメーカーは、大量に部材を調達する分、日本をビジネス拠点とする国産メーカーよりも価格優位性がある。
しかし、02年の部材価格上昇は、その上げ幅が大きかったため、どのメーカーもその分を販売価格に転嫁せざるを得なかった。
複合的な値上げ要因これに対し、今回の値上げ要因は特定の部材や素材ではないというから、少々ややこしい。「燃料費の上昇によるコスト増、中国の工場での人件費コスト増など複数の要因が重なった結果だ」とNECは説明する。NEC以外の外資系ベンダーも、中国など人件費の安いアジア地域でパソコンの生産を行っている。ここ数年、パソコンの価格が落ち着いていたのも、ここで生産コストを抑えることができたからだ。しかし、アジア各地で人件費が上昇。さらに、完成した製品を輸送するための燃料費も高騰しており、値上げを実施するメーカーが出ても不思議はない状況となったのだ。
こうした状況を踏まえ、パソコンメーカー各社に確認したところ、NECと同じ国産メーカーである富士通は、「当社のパソコンはすべて国内生産となっているため、輸送コストは海外生産に比べて抑えられる」と、秋に発売する新製品の値上げはしない予定だ。日本ヒューレット・パッカードとデルは、「8月末現在、値上げの予定はない」という。ただ、人件費、燃料費などの上昇で状況が厳しいことは認めており、「グローバルな生産体制で、コスト上昇分をカバーしている」(日本ヒューレット・パッカード広報部)という状況だ。
おそらく、このまま燃料費の高止まりなどが続けば、パソコン価格はさらに厳しい状況となっていくだろう。CPUやメモリーなどの主要部材が、量産化による性能の上昇に反比例して価格が下がっていくなら、右肩上がりの価格上昇を食い止められる。が、パソコンは元来収益性の高い商品ではないため、主要部材の価格に変動が起これば、値上げに踏み切るメーカーがさらに増えていくことになるだろう。(フリーライター・三浦優子/2008年9月24日発売「YOMIURI PC」2008年11月号から)